□そのとき、君は
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表のドアに[面談中]の札を掛けた進路指導室の中では、相変わらず私と先生は机を挟んで対峙して座っているだけ。
もちろん進路について指導も相談もない。
先生は険しい顔付きで煙草を蒸して煙を吐いている。
一体どういうつもりなんだろう。
私が先生を好きだと言った事実を確認したい、のか。
何を今更……。
もうあれから何ヶ月経ったと思っているんだろう。
新学期を迎えて、私は三年になった。
あれから二ヶ月、頑張って諦めたのだ。
傷を癒したのだ。
そう、しようとしているのに。
そう、思い込もうとしているのに。
今更蒸し返すようなことはやめて欲しい。
儚く散った恋心は、未だに心の奥で燻り続けている。
そのことを誰にも気付かれないうちに、忘れたいと、癒したいと思っているのに。
もちろん、先生にも気付かれたくない。
重荷になるような一方的なこんな想いなんて。身勝手すぎて空しい。
「何か言ってもらわんと、こう工作した意味がないんだけど」
何も言わない私に痺れを切らしたのか、普段の先生らしくない低音の声に肩がびくついてしまった。
先生は、手にしていた短くなった煙草を缶のプルタブ部分で押し潰すと、そのまま飲み口へ突っ込んだ。
はー、と何度目になるか分からない溜め息を、先生がまた吐いた。
その原因は、間違いなく私だ。