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□本編
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廊下を走ってると、噛まれたアトに風が当たってヒリヒリする。
末永ってヤツ、人のこと噛むとか何考えてんだよ…ありえねぇし。しかも歯型が残るって、結構強く噛んだっぽい。血が出てなくて本当に良かった。

もう一回、確認するように噛まれた所をそっと触ってみる。我慢できないくらい痛いって訳じゃないけど、じんわり痛い。早く見てもらう為にヒリヒリするのを我慢して、階段を走り降りた。
資料棟の1階にある保健室は体育でよく小さな怪我を作るから、結構来てたりする。湿布とかバンソコの場所はもう覚えちゃった。


「失礼しまーす」
「あらら、緋くんまた怪我したの?」
「今日は俺のせいじゃねーもん」


困ったように笑ってる、優しい保健室のかおる先生。
いつも怪我すると気をつけなさいって注意される…よく体育後に来てるせいで名前まで覚えられちゃった。
今日はどこ怪我したのって聞かれて、噛まれた首を指差した。


「なにこれ!?」
「噛まれた」
「見たら分かるけど…なんで!?」


かおる先生は首の噛みアトを見てビックリしてた。そりゃそーだ、学校で噛まれて怪我するヤツなんて信じらんねーだろ。
…噛まれた俺が1番ビックリだけど!
でもビックリしててもやっぱし先生、てきぱき消毒をして、丁寧に包帯を巻いてくれた。
消毒の途中で薬棚にちらっと映った首を見たら、噛まれたアトの周りが内出血で色が変わってた。むらさきっぽくなってる…見るんじゃなかった。


「はい、終わりました」
「かおる先生ありがとー」
「いえいえ、所で誰にそんな歯型残されたの?」
「んー末永ってでけぇヤツ」
「…まったく」
「ん? なんか言った?」


かおる先生がボソッと言ったことが聞こえなくて、なんか言ったか聞いてみたら「なんでもないよ」ってにっこりされた。
保健の先生だし、知ってるヤツだったのかな? あいつでかいから目立ちそうだし。

なんとなく納得して、もういっかい先生にお礼を言って、俺は寮室に戻る事にした。今度は末永に会わないように、廊下を慎重に走った。
今日はなんかすごく疲れた。部屋に着いたら早く寝よう。



*****



「困った事になった…」
「薫ちゃんが溜め息なんや珍しいなぁ?」
「…っ春?」


独り言のつもりが、思いがけず返事が返ってきた事に驚いた。


「お前っ…いつから」
「なんか豆みたいな子ぉが入れ違いやったで」
「緋くんか」
「首のあれ、次の子なん?」


春の問い掛けにゆっくり頷いてみせると、あちゃーと態とがましく額に手を当てた。
変な関西弁と合わさり、胡散臭さは3割り増しだ。
わざとらしい関西弁をやめさせるべく、春の鼻をつまんでやった。


「いでーっ」
「普通に話せ普通に、いつから関西人になったんだお前は」
「だって次の親父が関西人だからさ」
「合わせる必要はないだろ?」
「ま、ええやん」


複雑な家庭環境をへらりと話すと、するりと俺の横を通り抜け空いているベッドへと腰を下ろした。
飄々としていて分かりにくいが、彼の飄々さこそが自己防衛なのかもしれない。


「それよか黒ちゃん今回の子ぉは大分タイプが違うんやないの?」
「相当な、その上歯型だ」
「えっ噛んだん!?」
「そりゃもうくっきりと」
「普段はバリネコっぽい子ぉに、印付けとくだけなんになぁ」


春の言う通り、黒の被害に合う子はいつも決まって"それ"っぽい子である。
被害と言うより望んでと言う方が合っているのではないかと思う程に。
普段は印(所謂キスマーク)で済んでいるが今回は歯型を付けられているし、タイプが違う点からして、黒の緋くんへの執着を感じた。


「どうなることやら」
「…まったく」


春と2人、これからの苦労を考えて大きな溜め息をついた。






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