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□春色フリーフォール
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「なんか卒業した! って余韻が全然ないよね〜」
グレイのラインが入ったスーツを身に当てて、どう? と尋ねてくる千香に、首を振る。
小柄な彼女には似合わないソレを取り上げ、代わりに薔薇色のノースリーブワンピースを差し出した。襟がフリル仕立てで、シンプルな形だけどそれがカワイイ。ふんわり広がったスカート部分も千香の雰囲気に似合ってる。生地がしっかりしているので、軽くは見えないし。
「さらば友よって歌ってたときはホロリとしちゃったんだけどー。全然サラバじゃなかったワケだ」
絵美にはオーソドックスなブラックのパンツスーツを。背の高い彼女によく似合う。インナーや、アクセサリーを工夫したら華やかになるだろう。
にわかスタイリストになっていた私は、よしと頷く。フィッティングルームに二人を押し込んで、そうして、お召し替えの間もかしましく続けられる会話にツッコミを入れた。
「余韻も何も、千香が家に帰ったとたんカラオケ集合メール送って来たんじゃん」
「や、だって。喋り足りなかったし、ちょうど卒業割引やってたんだもんー」
カーテンを開けて出てきた千香がぷぅと頬を膨らませて、そんな言い訳をする。
おお、カワイイ! 私が褒め称えると、満更でもなさげにしながらも、でもワンピースって子どもっぽくない? と気にするので、この間買ったツィードジャケットを合わせたらどうかと提案してみる。
「ま、卒業ってもそのまま大学部に上がるだけだしね。そりゃ実感わかないわ」
きっちりリボンブラウスのタイまで締めた絵美は、カーテンを開けた私たちのウケを狙うようにモデルのようにポージングしていた。
いやアンタ普通にかっこいいし。うん、合わせるのは大振りのネックレスがいいかな。
大学では家政科専攻、服飾の道に進みたい私は、こういうことを考えるのが好きだ。二人が私のアイデアを受け入れてくれるから、余計に楽しくて。
薦めた服と小物を無事購入し両手に荷物を抱えた私たちは、次はどこ行く? と歩き出し――絵美が呟いた。
「……しかしアレだね、入学準備とか口実にして毎日顔を合わせてるあたしたちって」
「「「暇だね〜」」」
最後はユニゾンで言葉が揃って、弾かれたように笑い声を響かせた。