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□境界線上の君。
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クラス分けの掲示板の前で時間を過ごしすぎたあたしは、ホームルーム直前の新しい教室に慌てて飛び込んだ。
新学期、新しい級友、そうは言っても三学年。ある程度見知った顔ばかりで、緊張することもない――はずなのに。

教室入ってすぐに目にした人物に一瞬息を飲む。

「おう」
「…おう」

振り返った彼が普通に声をかけてきたから、反射的に応えて。

あの頃みたいに。

その態度が何でもなさすぎて、二年間のブランクを忘れそうになった。

彼の視線から逃れるようにキョロキョロ教室内を見回しても、知り合いはいない。
当たり前、既に親しい友だちとクラスが離れてしまったことは確認済みだ。

だけどこれってなんだろう。
アイウエオ順の座席なら、彼――藍川が、入り口に近いこの場所にいるのはおかしいよね?

あたしの困惑を読み取ったように藍川が口を開く。

「席は自由だってさ。お前、来るの遅かったな、いいところもう取られてるぞ」

指差す方向を見ると、黒板一面に座席表が描かれていた。
空欄はあと二、三席。彼の言う通り残っているのは教壇の一番前だったり黒板が見にくい席だったり。
慌てて書き込みに行く。
空席の周りに埋まった名前を見て、一瞬躊躇ったけど、仕方なしにそこを選んだ。

――ヤツの前の席を。

チョークの粉を払いながら、戻ってくるあたしとそれを眺めている彼に、その周りにいた友人たちが顔を見合わせる。

「なになに、総司ってば沖田さんとお知り合い?」

不思議そうに問いかける声があたしの髪を揺らした。

「ああ、幼なじみ」

端的に答えた藍川に、また、鼓動がその存在を主張する。

軽く驚いた声を上げる彼らに、ちょっと怯みつつ、席についた。成り行き上、無視するわけにも行かず、会話に耳を傾ける姿勢を取って。

なんでアンタが藍川クンたちと親しげにしているんだと、クラスの女の子の視線が気にならないわけでもなかったけれど、あえて気にしないフリ。

まあ、そうだよね。
昔はいざしらず、今のあたしと藍川に共通点なんてないもの。

こんなに近くで顔を合わせるの、久しぶりに不意打ち過ぎて、暴れる心臓を宥めるのに苦労する。

「幼なじみってそんなん初耳だぞ〜! なんで教えないのオマエ〜」

賑やかに藍川を締め上げているのは工藤くん。前期副会長だった彼は校内ではちょっとした有名人だ。じゃれあうくらい仲がいいとは知らなかった。

「なんでわざわざ教えなきゃいけないんだよ……」
「この石像男! 沖田さんとそのお友だちときたら他校に隠れファンがいるくらいの素敵女子だろ! お近づきになっておきたいに決まってるだろ!」

…あの、本人ここにいるんですが。
確かにあたしの友だちは表も内も可愛い娘ばかりだけど、一緒にされると申し訳ないっていうかこっぱずかしいっていうか。

ベシベシ頭を叩く工藤くんに、思いきり嫌そうな顔をした藍川は、振り下ろされたその手を取って逆手に捻じあげた。

「それ聞いたら余計に教えなくてよかったと思うだろ。この阿呆」
「いで! いでででで!」

騒がしいこのやり取りにあたしはポカンとするしかなかったんだけど、他の男の子たちが平然として笑っているところを見ると、いつものことみたい。



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