駄文

□密やかな恋情
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生まれてからすぐ九尾の妖狐を身体に封じられ
今までずっと周りから忌み嫌われてきた自分。
他人からの温かな感情など無縁であったし、自分自身そんな感情は持つことはないだろうと
ずっと思っていた。

思っていたのに…

何だろう、この気持ち。

彼一人に対して沸き起こる痛みを伴う胸の疼き。
高鳴る鼓動。

これが恋という名の「感情」だという事に気付くまで
たいして時間は掛からなかった。

でも

知られてはいけない。気付かれてもいけない。
初めから伝えるつもりなどさらさらないけれど。
迷惑がられ、遠ざけられるのは解っている。
今のままのマンセル仲間で、近くで彼を感じていられれば十分幸せだった。
それ以上は何も望まない。彼が幸せなら私も笑っていられるから…






アカデミーを卒業して下忍となり、はや数ヶ月。
意気揚々と集合場所へと向かうナルトの足取りは軽い。

下忍の任務内容は草むしりやらゴミ拾いなど、雑用と言っても過言ではないものばかりだが。
初めて「仲間」と呼べる人達との任務は楽しかった。
マンセル仲間のうちはサスケと春野サクラ。
担当上忍のはたけカカシ。
カカシ班となって初めて顔を合わせた時から三人とも、一度たりとも自分に対して悪意を向けてきた事が無い。
ナルトはこのカカシ班がとても大好きで、かけがえのない物となっていた。






「おっ。」

木に寄り掛かり、佇むサスケを見つけた。

「オッス、サスケ!」
「…よお。」
「相変わらずテンション低いってばね〜。」
「お前が朝から煩いだけだ。ウスラトンカチ」
「一言多いってばよ!」

サスケは口は悪いが、本当は根は優しいのを知っている。

少し前、足元に纏わり付く黒猫を追い払うでもなく抱きかかえ、家に連れ帰るのを目撃したのだ。

猫を抱える時にフッと笑みを浮かべたサスケの顔があまりにも優しくて。
その表情が脳裏から離れず、気付けば顔が熱くなっている自分がいた。
ナルトはそれからサスケの見方が少しずつ変わっていったのだった。





「サスケく〜ん、ナルト〜!おはよう!」

桃色の髪を靡かせ、サクラが手を振りながらやって来た。

「サクラちゃんおはよっ!」

サクラはチラッとサスケに目をやると小声でナルトに呟いた。

「いいなぁナルト…」
「?何で?」
「だってサスケ君と二人きりだったじゃない!」

そういやサクラちゃんはサスケの事が好きだったんだっけ…

キュッと胸が少し痛むが、サスケにとってはサクラの方がお似合いだし、自分と違って迷惑を掛けることなどもないだろうから。
ナルトはサクラの想いを知った時から応援しようと考えていた。

「サクラちゃん。私ってば明日なるべくゆっくり来るから、頑張ってね。」

同じく小声でサクラに伝えると

「ありがとう!ナルト!」

とサクラは綺麗に笑った。

ナルトには家族はいないが、サクラは自分の姉の様な存在で大好きだ。
だから余計に彼女にも幸せになってほしいと願っている。

大好きな人達が一緒になって幸せになる。

こんな素晴らしいことはないとナルトは考えるのだった。
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