五十音順愛の詠book
□五十音順愛の詠 『い』
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いにしえの恋
大昔から決まってることがある。
それは、海賊なんてバカばっかりだということ。その中でも、能力者なんて飛び抜けてバカだ。
だってあいつらは、海が好きで、大好きで焦がれて焦がれてこの大海原に出たくせに。
その身は、意中の海からこの上なく嫌われてるんだ。
これをバカと呼ばずして、何と呼ぼうか。
「随分酷い言いようだな」
「だって、事実だろ。船長海に落ちたら、浮かぶこともできずに飲み込まれていくだけじゃん」
指で柵の向こうに広がる海を指差せば、本を読んでいた船長は日の光に輝く水面に目を眇めた。
「惚れた女に飲み込まれて死ねるなんて、ある意味愛されてんじゃねぇか?」
独占欲が強いじゃじゃ馬みたいなもんだろ。肩を竦めて帽子の影でニヤリと笑った顔は、冗談とかじゃなかった。
呆れて言葉も出ない。
やっぱり、能力者の海賊はバカだ。
大昔、それこそこの大海賊時代の始まる前よりも、男たちは世界一の女に焦がれ、か弱い小舟で海原に漕ぎ出す。
この世の果てで、その女の手を掴み口付けたいがためだけにだ。
「アホだなぁ」
「おれに言わせればそのアホに付き合ってるお前も中々だぞ」
「そりゃね、あんたにぞっこん惚れてるから。世界一の女と添い遂げさせたいわけよ」
「なんだ、自分はいいのか」
「いらねぇよ。あたしは海の果てで笑ってるあんたを見れればそれでいい」
だからさ、最高にしびれるプロポーズを見せてくれよ船長。
海の男共が愛を囁く女をかっさらってさ。
いにしえからの恋に、あんたが終止符を打とうじゃないか。