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□新年(現パロ)
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遠くで除夜の鐘が鳴っている。
炬燵に体をとっぷりと入れ、テレビから流れる紅白を何とはなしに聞いていた。
今年の大トリは、例年通りサブちゃんらしい。
なんだか、そっちの方が落ち着くのは慣れってもんか。
ふあう、隠すこともなくあくびをしたら、向かい側でミカンを剥いていたキャスが女捨ててなぁと笑った。
涙がじわりと目の端に滲む。膝に抱えていた小熊にも、ふあうとあくびが移る。
小さな口の中は健康的なピンク色だ。
さすがペンギンが食事に気を付けているだけはある。
小熊くんの同居人も、ベポ相手だとかなり気を遣っているみたいだけど、日頃本人の食事が酷すぎる。
コンビニがお友達な人間に健康的な食事なんざ無理な話だ。
まー、あたしもキャスもペンギンにはかなりお世話になってるから、言えたもんじゃないけど。
ベポをぐりぐり撫でながら、二人でキャスの指がオレンジ色の皮を丁寧に剥いていくのを見る。
すらりとした指が、白い筋をそれはそれは綺麗に全部取っていく。めんどくさくないんだろうか。
あたしはいっつもめんどいから、そのままがぶりだ。
「初詣行く?」
「あー、でもここらへん混むぞ?」
「でもおみくじ引きたいなぁ。ねー、ベポ」
「ねー」
揉みくちゃにされておみくじの箱を振ると、新年だなぁと感じるのだ。これも例年通り。
サブちゃんと一緒だ。
炬燵の中でげしげしキャスの足をつつく。
負けじとこちらの足が押さえ込まれ、せっまい四角の中でちょっとした戦いの火蓋が切って落とされる。
あまり大きく足を動かすとベポの座り心地が悪くなるので、ここら辺の力の入れ具合が難しい。
キャスは多分乗り気じゃないなりに、このまま押せばこっちに流れてくれるはず。
着物のお姉さんはきっと綺麗だよ。と言うと、キャスの表情が分かりやすいくらいに緩む。
おし、あと一押し!
がすがす蹴り合いをしながら、ミカンくれ、とあたしとベポが口を開けると、横着者だのなんだの言いながら剥いたミカンを放り込んでくれる。
今年のミカンは小振りで甘い。
口一杯に広がった甘さに、頬が緩む。
蹴りの強さもつつく程度になってきた時、キッチンの方から丼を持ったペンギンがやって来た。
何やら作ってると思ったら年越し蕎麦だったらしい。
ダシの香ばしい匂いに、思いきり息を吸い込む。
「三人とも、蕎麦食べるか?」
「食う」
「ごち」
「アイー」
小気味良い音で手を合わせる。
晩飯もたらふく食ったけど、やっぱり、これは別腹だ。
ベポ用に小皿に蕎麦を分けてから、七味をかける。
はふはふ冷ましながら、器用に箸を使っているベポの可愛さったら、もう言葉にできない。
ごーん、と。響いた鐘の音に、はっと我に返る。
危ない危ない、消えたばっかりの煩悩に支配されるところだった。
止まっていた箸を動かし、ペンギン手製の蕎麦を味わう。