BOOK@

□サクラ
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「うーわー!」
船縁から身を乗り出して、チョッパーは驚きの声を上げた。
キラキラと好奇心に満ちたその大きな瞳にうつるのは、これまた大きな桜の木だ。
ゴーイング・メリー号を三隻分たやすく覆えそうなほどに。
「すっげェなー!」
船は、春まっさかりの島へと辿り着いた。
淡い色の花びらが風に乗り、岬にとめた船までひらひらと飛んでくる。
岸からそう遠くない位置で咲き誇る桜はとても立派で、威圧感すら感じられた。
そしてその木の下で、にぎやかな音楽に浮かれた人々が踊っている。
ルフィとウソップはその光景に一目散に飛び出し、それを制しようと追い掛けたナミも、半ば無理やり輪の中に加えられてしまった。
「きれいね船医さん」
女部屋から出てきたロビンが、落ち着きのないチョッパーに話かける。
「おれの国は冬島だけど、サクラ咲いたんだぞ!な、ゾロ!」
嬉しそうな声のチョッパーに突然話を振られて、ゾロはぱちぱちと瞬きした。
天気もいいしまさにお花見日和なので昼寝でもしようとしていたのだが、どうにも眠れない。
「…そうだな、あれはすごかった」
「あら剣士さん、起きてたのね?」
「おれもゾロが答えるとは思ってなかった」
めずらしいなー、とチョッパーはロビンと笑いあっている。
「なんだよ、起きてちゃ悪ィのかよ」
下唇を尖らせてふくれるゾロに、二人はさらにくすくす笑う。
完全に子供あつかいだ。
「ロビンちゃん、きっと雨が降るぜ。今のうちに交ざってきなよ」
昼食の下拵えを終わらせたサンジも、そう言ってゾロをからかった。
3対1ではゾロに勝ち目などない。
「そうね、じゃあ船医さん行きましょうか」
「うん!」
ゾロをからかって気が済んだか、二人は軽やかに岸へと降り、仲良く並んで騒ぎ立つ輪へと向かっていく。
遠くなる二人を見送って振り向いたサンジは、ゾロにぎろりと睨まれた。
「うるせェぞコック」
「二人っきりの時は愛を込めて名前で呼んでほしいもんだね」
「黙れアホコック」
ふん、と強気に鼻を鳴らしたゾロは、頭の下で組んだ腕を枕に目を閉じてしまった。
どうやら今度こそ眠るようだ。
「…………」
サンジは片眉を少し上げるとゾロに近づいた
そうして体をかがめて、広い額に口付ける。
ゾロは嫌そうに眉根を寄せたが、文句を言わず目も閉じたままだ。
けれどほんのりと、その目元をきれいな桜色に染めている。
サンジはほほえんだ。
これ以上、ゾロの昼寝の邪魔はできない。

風に乗って運ばれてくるのは、遠くにぎやかな声と桜の花びら。
おだやかな季節。
これからもこうして、皆とこのままで、ずっと、いられればいい。
薄桃色がふわりと軽やかに舞った。

END

▼Comment
UP:2005.5.2
二ヵ月ぶりのSS更新…
クルーな日常というか、普通の日を書きたかったんです。
プラス、お花見…(遅)
こんな日があってもいいじゃない。

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