BOOK@

□スコール
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「だから嫌だって言ったんだ…」
「今更遅ェんだよ」
「んだと?来いっつったのはてめェだろうが!」
「うるせェ!ちったぁ黙りやがれ!」
スコールのようなどしゃ降りの雨の中、二人は民家の屋根の下で雨宿りをしていた。
なのに、些細なことで口論になり、今にも自分の持ち技を繰り出しそうな雰囲気だ。
(何してんだ…)
喧嘩してる場合じゃねェよな…
早く帰らねェと…
サンジは雨で濡れた前髪をかき上げると、地面に置かれた紙袋や酒樽を見下ろした。
ゾロを連れてきたのは荷物持ちのためである。
しかし船に帰る途中、雨に降られて仕方なくこの状況というわけだ。
「…冷て…」
ふと、サンジの耳に震えた声が聞こえてきた。
見ると、ゾロが自分自身を抱くようにしゃがみ込んでいる。
なんだか顔色が悪い。
「寒ィのか」
「うるせ…」
強がるように言ってみせるものの、ゾロの声は震えている。
それを見下ろして、サンジは小さく溜め息をついた。
(ったく…ん?)
視線の先に小さな宿屋の看板を見つける。
ゾロとそれを交互に見やった。
サンジはゾロとそれを交互に見やった。
そうして今度は大げさに溜め息をつくと、地面の荷物を持ち上げた。



「とっととシャワー浴びてこい、風邪引く」
「…」
無言で浴室に向かうゾロの背中を見送って、サンジはジャケットを脱ぐと椅子の背にかけた。
スーツは雨を吸って重くなっている。
内ポケットの煙草は意外にも無事で、サンジはそれに火を付けて窓に近づいた。
外は先程よりも雨脚が強くなっていて、他の仲間がどうしているか心配だった。
(早く止まねェかな…)


浴室に響いていたシャワーの音が止まり、バスローブを着たゾロが出てくる。
「うわ、お前それ、すげェ似合わねェ!」
「しょうがねェだろ!」
思わず笑うとゾロは怒ったように顔を赤くした。
「悪ィ悪ィ」
「お前もシャワー使えば?濡れただろ」
「…おう」
少し拍子抜けしてサンジも浴室に向かう。


頭を拭きながら出ると、ゾロが二つあるベッドの一つに俯せていた。
相変わらず雨は止む気配を見せない。
サンジも開いている片方のベッドに仰向けに寝転んで目を閉じた。


―――ギシ
どれくらい寝ていただろうか。
ベッドの揺れる振動で意識が浮上するが、目が開かない。
(そんなに疲れてんのかな…)
(…サンジ…)
(今何時だ?)
(…サンジ)
名前を呼ばれた気がして重たいまぶたをようやく開ける。
目の前には、隣のベッドで寝ていたはずのゾロの顔があった。
なんで、こんなに…
近いんだ…?

「て、めェ、何してやがる!どけよ!」

サンジは自分を覗き込むゾロに、ひどく動揺して声を張り上げた。
サンジの体の上、覆い隠すようにゾロがかぶさっていたのだ。
その光景はまるで、ゾロに押し倒されたかのようで。
(何で俺が!)
(こんな野郎に!)
(何でこの俺が!)

「どけっつんだよ!」
「…黙れ」
ゾロの顔が近づいてきて、サンジは思わずギュッと目を閉じた。
その瞬間、唇にやわらかい感触。
驚いて目を開けるとすぐそばにゾロの顔。
「、ん…」
「っ!」
唇を割ってゾロの熱い湿った舌が入ってくる。
サンジは驚いただけで抵抗できなかった。
蹴飛ばすなり殴るなりしてゾロをどかすことはできたが、それどころかいつの間にかゾロの舌を追いかけるようにキスに答えていた。
(何で俺が)
(こんな野郎に)
(何でこの俺が)
相変わらず動揺したままでキスを深くする。
ふ、とゾロが離れると潤んだ目を細めて――笑った。
それは初めて見るゾロの笑った顔。
「溜まってんのか?クソコック」
「そりゃお前だろ」
「…そうかもな…お前男とやったことあるか」
「あるわけねェだろ、俺はレディ専門だ」
「やり方ぐらいはわかるだろ」
「剣豪さまは経験おありで?」
「ある」
戦い以外のゾロに、どこか中性的な雰囲気を感じていたサンジは、その発言に動じなかった。
むしろ、やっぱり、と納得できて。
「っ!」
ふいに下肢を襲う感覚に、見ればゾロがサンジの股間をまさぐっている。
「ちょっ、待て!」
「たってんじゃん…お前、変態?」
「…っ!お前、だろ!」
悪態をつきながら口に招き入れたゾロに、サンジはさっき見た笑顔をもう一度見たいと思った。
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