ブラックアウト
□第二章
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「房井高雄16歳…で、よろしいかしら?」
鈴は目の前に座っている少年に相変わらずの無愛想で尋ねた。
いい所で育てられたんだろうなぁと想わせる穏やかな顔つきに、何もいじっていない黒の短髪、おまけに青のブレザーの制服をきっちり着こなしており、まさに優等生そのものだ。
しかし、こんな真面目君が殺し屋のソファーに座っているなんて、誰がどう考えたって場違いというもの。事実、この高雄という少年は此処の雰囲気自体に怯えていて、目の焦点がどうにも定まらない。
それに苛立ちを覚えたのか、鈴は依頼人までにも、躊躇せずに目つきを変えて言った。
「帰りたいなら、帰ってちょうだい。第一、未成年がこんな所に来るのがおか…」
「いえ!!すみません…。依頼させてください。」
追い出されることだけは避けようと声を張り上げてみるものの、まだどこかぎこちない。
高雄はスクールバッグからせかせかと1枚何かを取り出すと、身を震わせて鈴に見えるようにそれを机に置いた。
(忙しい子…。)と鈴は想いながらも、腕組みをしてそれを覗き込む。
どこかの会社の集合写真なのだろう。結構年配のおじ様方がビルの前で4段まできっちり並んで撮影されている。
そして、高雄は1段目のど真ん中に座っている七三分けの白髪で茶色の背広を着た、小肥りのおじさんにそっと人差し指をのせた。
「こいつ…こいつを、殺ってください!!」
「うんうん…確かに。私利私欲の為なら何でもって顔してるよね。見て見て、目とかスゲー嫌らしいもん。………あれっ??こいつロリコンじゃない!?だってさ、だってさ、顔が、『はい、僕はロリコンです。』って言っちゃってるよねぇ。」
知らぬ間に2人と一緒に覗き込んで呑気なことを言う令。
高雄はびっくりすると、そのまんま動かなくなってしまった。
そんな高雄の反応を見て令はけらけら笑うと、鈴の隣に座り込んで、
「この男の詳しい素性を伺ってもよろしいでしょうか??」
と鈴を真似たような口ぶりで高雄に尋ねる。
モノマネされた本人には、あまりにもそれが下手だったため、何がしたかったかも全然理解されていない。
(はい!!流されたー。)とニヤついていた顔を元に戻した。
2人のやり取りらしきものを見送って、高雄は静かに話し始めた。
「はい…。この男は金丸昭二といって、"グリーンフューチャー"の社長です。」
「あぁ!!最近株価が急上昇してる所だねぇ。」
令はそう言って、背もたれにもたれ込んだ。
珍しく話についていけない鈴は、首を傾げる。
「私知らないわ、そんな所。」
「知らなくてもおかしくないよ。本当つい最近の話だからさー。何か『緑のある、未来を』っていうスローガン掲げて、いかにも嘘臭い。実際、そういう目的があるくせに、かなりの企業がこの会社に買収されていってるんだ。多少の買収だったら言い訳がつくんだろうけどさぁ、か・な・り、だからねぇ。その"緑"ってやつに金当てろってね。」
と令が説明すると、鈴も何か裏がありそうだと睨んだ。
高雄はそれを聞いた途端、肩を震わせた。