ブラックアウト

□第一章
1ページ/14ページ



地図に書きとめれないくらい発達し続けている、ある路地裏に靴底の高い音が反響した。
その足並みは妙に落ち着いており、いいテンポを刻んでいる。他に音なんてない。
その音が止まると次は乱れた呼吸が響き渡る。緊迫感がじわじわと壁に伝っていった。



「はぁ…はぁ・・くそっ…道はねぇのかっ!!」



荒い呼吸の持ち主の若い男はセットしていた赤髪を乱して、目の前の行き詰まった壁を硬く握った拳で殴った。
顔中から流れる汗を拭うと唾を飲みこし、元の来た道に振り返る。

そして、そこには腰はないだろう、と想うくらい下にずらしたジーンズのポケットに手を突っ込んで、「ッハ。」と全く余裕のない笑みをこぼした。


男の目線の先には黒っぽいジーンズに緑のパーカーを着こなし、眼鏡をかけた色白の青少年が立っていた。髪は真っ黒で長さは襟足くらいまであり、前髪を左分けにして左目が少し隠れている。
なんといっても、この少年不気味なことにオッドアイで右が黒目で左が赤目だ。

だらし無さそうに突っ立っているが、左手にはがっしりと拳銃が握られていた。


少年はまたブーツをカツンと鳴らし、男を追い詰めるかのようにゆっくりと歩き出す。その距離40m。
男は素早く地面に膝を落とすと額を地面にこすりつけた。


「俺が悪かった、なっ!?!?命だけはまぢ勘弁。」

そう言って男は自己満足したのか、安心からのため息をついて顔をあげる。しかし、何故か額には鋭く冷たい感触がはしった。


もう少年は目の前に仁王立ちで、男の額に銃口を突き付けているのだ。
現在おかれている状況に気付いた瞬間、男は元から大きかった目をさらに開け、よだれを垂らしながら狂い叫ぶ。

「なぁ!!言ったろ悪かったって!!これ以上どうしろっていうんだ??あぁ??」



「君がしつこく絡んでくるから君の遊びというのに付き合ってたんです。今更時間が惜しいですよ…。でもね、僕は別に止めてもいいんだけど、彼らがお腹をすかしているようですし。」

少年は淡々と言うと銃をさらに押し付けた。
男は言ってる意味がさっぱり理解出来ず、眉間に深いしわを寄せ、「…は?」と呟いた。かいた汗がそのしわに溜まっていく。



男はあることにふと気がついた。
こんな薄暗い路地裏でも夕日のおかげで少しは明るかったのに、急に夜が訪れたように真っ暗になったのだ。時期にしては、日が落ちるにはまだ早過ぎる時間帯だ。
よく地面を見てみると小さい影が無数に動き回っているのである。どうやら原因はこれらしい。

すると、1枚の黒い羽が優雅に落ちてきた。

男はとうとう上を見上げると口をあんぐり開けて固まった。



ビルの狭間に数え切れない程の無数のカラスが舞っているのだ。
口を開けたまま少年に視線を戻すと、少年の後ろにもカラスが数羽舞っていることに気づく。

その途端、男の耳にはカラスのざわめきしか聞こえなくなった。
そして、自分は死ぬのだと悟った。



少年は何の躊躇いもなく、静かに引き金を引く。

緊迫していた空気が化学変化を起こしたかのようにあっという間に冷たい空気に変わると、カラスは喜ぶかのようにさらに翼をばたつかせて屍に群がりはじめるのであった。




その中、少年は来た道を戻ろうと振り返るが、そこで足を止めてしまう。そして、あのオッドアイを輝かせた。

なぜなら、 カラスが暴れるすき間からくっきりと女の姿が見えたのである。
少年からは少し遠くてぼんやりとしか顔はみえないが、風貌は全体的に黒で薄気味悪い。
女は風貌通りの不気味な笑みを残し、カラスに隠れた一瞬で姿を消してしまった。本当に一瞬の出来事だった。


少年はカラスの大群から抜けて、女が立っていた場所を見回してみるが、そこはもう大通り。いくら捜したって人群れの中から見つけ出すなんて至難の技だ。

あっさり探すことを諦めると、深呼吸をしてから忙しい民衆の流れに溶け込んでいった。
 
 
 
 
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ