11/03の日記
20:39
経る年月に花束を ギャリイヴ 途中放棄
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経る年月に花束を
それはそれは穏やかで優しい、まるでお砂糖と蜂蜜をたっぷり注いだミルクティのような歳月だった。あたたかな手のひらの温もり、煙草の煙で据えた匂いのするボロボロのコート、ふわふわと髪に触れる骨ばって細い指先。
まだ僅か九歳だったイヴにとってそれは全部が全部未知の物だった。或いは初めて与えられた近親者以外からの掛け値ない愛情だった。
居心地が良かったのだ。気兼ねなく甘えることを許されることは。自由であることを望まれることは。
ギャリーはイヴにイヴらしくあることを願ったから。その優しさに寄りかかり、また寄りかかられることが、酷く心地よかった。
そうしてずるずると依存関係が続いた。おかしな美術館で得た絆がゆっくりと歪な形に成形されて。
「私、ギャリーが好きよ」
だからジュニアハイに上がったイヴにそう言われたとき、ギャリーは頬をひっぱたかれたかのようなショックを受けた。
あたしはこの子に近付きすぎてしまった、とイヴに出会って七年目、初めて死ぬほど後悔した。
年の離れた妹のように思っていた。くるくるとよく変わる愛くるしい表情も自分が傍にいたからこその物だと一点の曇りなく信じて。蝶よ花よとまではいかなくとも、髪を梳いて手を繋いで抱き締めて額に小さなキスを落とすことは自然にしていた。
それを間違いだったと突きつけられたに等しかった。
「あのね、イヴ。あたしもイヴのこと大好きよ。でもそういう言葉は軽々しく使っちゃいけないわ。本当に好きな人にいうとき、言葉が軽くなっちゃうわよ。だから」
「ギャリー」
この言葉は違うと自覚しながらギャリーはそうたしなめる。
案の定、冷え切った声音がその言葉を打ち切った。
「私もう十六になったの」
「そうね、この前一緒にお祝いしたわね」
「もう私、結婚だって出来るのよ」
「法律上はね。でも現実的じゃないわ」
「学校でも家でもなんでもうまくやってるわ」
「まだ社会に出てない以上子供のままよ」
「……ギャリー」
じとりとした視線がギャリーに刺さる。彼がついぞ向けられたことのない色の視線だった。
(だから女って怖いのよ)
ほかりと空いた穴のようだった。
埋めることのできない決定的な差違だった。16になったイヴの瞳には情欲の光が見え隠れしていた。
(ねえ、イヴ。あんたいつの間にそんな目をするようになったの)
「いつか、あんたはこんなおっさんよりずっと素敵な殿方に出逢えるわ。早まっちゃ駄目よ、よく胸に手を当てて考えて頂戴。あたしなんかよりいい子なんて沢山いるわ」
「ギャリーより素敵な人なんていないよ。私、分かってたもの」
「あたしより素敵な人なんていないって?それは」
「違うよ。そうやってギャリーがのらくらと私の話を聞かなかったことにしちゃうことよ」
「……」
ってところで放置すること半年。
なんかもう書ける気もしないので没がてらサイトにー。
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