09/21の日記
16:51
しあわせのはなし【神ない詰め
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アニメと原作の流れを追いつつ、そして私の主義として原作ブレイクは基本的にしないことにしています。
そういう状況下での「しあわせ」を考えて詰め込んだSSS集です。CP入り乱れてます、ご注意を。
また、アニメだけの方にはなんのこっちゃな話も含まれるかと思いますが、ご了承くださいませ。
ちなみに白羅は原作・アニメ・コミックスを踏まえて話を書いてるつもりです。
春うらら -アスティン夫婦
時間軸原作以前。
ぐぎゅるるるる、と。女としちゃもう終わってるとしか思えない腹の音。
その音をさらに上書きするかのような、ぎゃはははは、と、そんな品のない笑い声。
「やー、腹が減ったぞ、ハンプニーくん」
「言われなくてもわかるってのバカ」
ハナはまたぎゃははと笑って、うん、と伸びをした。
「腹が減るってのは良いもんだなぁ」
「はあ?おいハナ、お前、Mっ気でもあんのか?腹なんざ満腹のがいいに決まってんだろ」
「ふっふーん、若いねハンプニー。腹が減ったと感じられるってのは翻せば、生きてる、ってことなんだぜ?おー、この世とは人生の春である!!」
と、ハナは楽しそうに両腕を開いて空を仰ぐ。澄み渡った綺麗な青空だった。
俺はふうっと溜息を付く。
「この、人が死ななくなった世の中で、この不老不死の人喰い玩具の前で、お前はそれを言うのかよ」
ハナはきょとりと首を傾げた。さらりとした長い髪が揺れる。
それから、にっこりと微笑んだ。
「ハンプニーは生きてる、あたしも生きてる。それだけであたしにとっちゃあこの世は春もうららだね。愛してるぜ、ハンプニー」
「…………あーあーそうかよ。俺もだよ、ハナ」
呆れたようにそう返事をすれば、ハナはまた楽しそうに笑う。
「さぁて飯にしよう。希望としちゃあ、野菜たっぷりのスープにがっつり肉が食いたいなぁ」
「お前は食い意地を張りすぎだ」
満たされているなぁ、と感じていた。
そんな、彼女との優しい記憶。
わがままにさよなら -ユリー家族
コミックス4巻補完
つまり、主観的な話だ。俺の観点からすれば今、森の奥に密やかに暮らす生活は満ち足りていて、それは愛しい妻とかわいい娘がいるからで。
じゃあ翻ってみることにしよう。
例えば我が友人、人喰い玩具ことキヅナ・アスティン。彼は間違いなく俺のこのねじ曲がった幸せを許容しない。
例えば、かわいい娘、ノエミ。俺と妻の我が儘に付き合って、もうずっと買い物以外は森の外の世界から遮断されている。
例えば、一年前に「死者」になった愛しい妻。
日毎にゆっくりと精神を腐らせて、俺の愛した「彼女自身の心」を乖離させながら台所に立つ妻であるナニカ。
「ねえユリー?今日の夕飯は何が良いかしら。ノエミがあったかいシチューが食べたいというのだけれど私的には今日はジャガイモのザクザク塩スープなのよねああでもユリー、あなたがシチューがいいなら私はそれでもああでもやっぱり塩スープよ塩スープにするわねえそれでいいでしょ?」
「君の好きなように作ったらいいさ。ノエミ、いいね?」
「うん、あたし、ママの料理なら何でも好きよ」
三大欲求の肥大。言語機能の崩壊。
「ずっと、ずっとずっとずっとしあわせに私たち暮らすのよねねねねえそうよねねね」
即ち、わがままになっていく妻。
終末は、突然だった。
「なあ、幸せだったかよ」
冷たい声。妻の脳漿を吹っ飛ばした親友の声だった。
「ああ、幸せだったさ」
答えた自分の声も、同じくらい冷え切っていた。まるで、断絶を恐れるような声だった。
「損なうな。お前はお前の道を歩くんだ。死者に足を取られちゃいけない」
幸せになってくれ、ユリー。
その親友の願いの行き先を、俺はまだ知らない。
朝焼けを歩く -キリコとウッラ
原作二巻後
国家に反旗を翻して、僕らの戦いはあの小さな夢に生きる少女に、変わりゆこうとする墓守に、それを見守る大きな存在に、この国の希望を託した所からだった。
小さな、だけど生きた年月はウッラと全く同じ、生の姫様。
セリカ様。
「お姉ちゃんが幸せなら、私はうんと頑張れるわ。だけど私はとてもとてもちっぽけだから、誰かに手伝ってもらわなきゃ何も出来ない。ねえキリコ。私、助けてもらうならあなたに助けて欲しいな」
「今更何を言うんだいウッラ。僕の命は君の物だよ。君の道にどこまでだってついていくさ」
ウッラはまだまだ小さな女の子で、僕はウッラが好きで、ウッラは僕の道しるべだった。
国家に反逆して、この先のことなんかまだわからない。それでも、ウッラも僕も、たった一つの道を得た。
「夢のために頑張るの。キリコ、私と同じ夢を見よう。オルタスを私たちで変えるの」
「ああ、誰もがしあわせになる国が、オルタスだ。まず、そのためには君が誰よりも幸せじゃなきゃ」
「私はキリコがいれば幸せよ」
まったく、この愛しいお姫様は、嬉しいことを言ってくれる。
なあ、アイ、スカーさん、ユリーさん。
あなた達に次にあったら、僕たちはなんて言ってこの幸せを伝えようか。
虹が架かる音 -ターニャ
原作三巻・アニメ八話後
眩しすぎて直視できませんでした。
夢のために全てを投げ出すことが出来る、それがひどく恐ろしいことのように見えました。
だって。
それは、夢という不確かな物のために死ぬことすら厭わないということで。
それは、それ以外の生き方を言外に非難しているということで。
それは、状況下に甘んじて諦めて過ごしてきた私の人生を否定されたも同然で。
ターニャさん、と私を呼ぶ柔らかな声が、まるで、此方へおいでよ、と誘っているようで。
「アイは強すぎるの、私にはとても着いていけないくらい」
そう、確かに思っていたのに。
「月の光のようなの。だけど、虹のようだった。眩しくて、儚くて、だけど輝いてる命だったの。お母さん、お父さん、私は、虹が空に架かる音を聞いたのよ」
アイ、あなたがあの日、私を、私たちを外の世界に連れ出してくれてから、私の聞く景音はますます多彩になりました。
あの日知った、硝煙の立ち上るその先の光の音を、私は生涯忘れることはないでしょう。
「ああ、アイ、私は今、とっても幸せよ」
白い光のその先 -兄妹を巡る挿話
原作四巻補完
ぐらぐらと不安定に揺れて崩壊していくお兄ちゃんの世界を、私は満ち足りた気持ちで見ていました。
さきにしんじゃってごめんね。むかえにきたんだよ。
おそくなっちゃったけど、いっしょにいこう、おにいちゃん。
白墨を手にして描いた夢は今私の目の前にあって、それはまるでこの世の終わりの頂のような光景でした。
ただひたすらに石を積むお兄ちゃん。意志もなく石を積むお兄ちゃん。
だけど、ああ。
私にはわかるのよ、お兄ちゃん。
ずっと、こんなところで一人きりにしてごめんね。私、お兄ちゃんを迎えに来たんだよ。
だから、きっときっと、幸せになろう?
「おにいちゃん、ただいま」
「…………ああ、おかえり。ぼくの、いもうと」
世界の果てに迷い子ひとり -ユリーとスカー
原作四巻後・アニメ十話後
だって私は墓守なのです。
と、幼子を抱くのを惑った彼女が、俺にはまるで、道に迷った子供に見えた。
俺が救いたいのは、身近にあるパーソナルな世界で、妻と娘を失った今、それは同じく旅をす仲間たちに変わりつつある。
我が昔年の親友の忘れ形見だとか。
死者の国でなお生にしがみついた赤ん坊だとか。
世界を壊すとのたまう小生意気な坊主だとか。
西方の魔女を名乗る何を考えているか分からない娘とか。
墓守という自分の機能を越えようとする、心優しい傷持ちの女とか。
「生あるものをすくい上げて、死に向かうもに祈りを捧ぐ。それが墓守じゃなくて、人じゃなくてなんだっていうんだ。俺は、人間味のあるスカーのことが、好きだよ」
セリカを掻き抱いて涙するスカーのその細い肩を抱いた。
きゃっきゃっ、とセリカが無邪気に笑った。
「俺が全ての災厄から、お前たちを守ってみせるよ」
「……ありがとうございます、ユリー」
スカーはそう、静かにひとしずくの涙を落とした。
カーテンのむこう -アリスとディー
五巻補完。
馬鹿だったなぁ。それでいて、ドジだった。
平和な日々がいついつまでだって続くと信じてたんだ。こんなにあっけなく、こんなに何気ないところに、落とし穴があったのに。
巡るループの中でボクは苦しくて切なくて化け物になった。同じように化け物になろうとするアリスを、やるせない気持ちで俯瞰してた。
あの日、カーテンの向こう側に落っこちてから、ボクたちの世界は、不幸せなまんまだ。
「ボクはね、君が思ってるよりもずっとずっと、君のことが大好きなんだよ、アリス」
オスティアに戻って得た重量は、手放すには余りにも優しくて甘い。
眠るアリスの赤い剛毛質な髪を撫でて、ボクはこの温かさを失うことを恐れている。
「ボクはアリスが幸せならなんだってできたよ」
世界の酸化を早めて終わらす。
それは西方の魔女、ディー・エンジー・ストラトミットスの夢だけど。
ね、今この瞬間。オスティアにいるだけでいいから。
君に恋をしてた15歳のディーでいさせてよ。
モノクロの夢 -アリスとアイ
六巻後
「この度、夢破れました」
「うん、そうだな」
「なぜでしょう。心の中は空っぽで、まるで死んじゃったみたいな気持ちなのに、なぜだか晴れ晴れとしているんです」
「そっか」
「ねえアリスさん。私、それでも生きてます」
見てください。夢で動いてると思ってたこの心臓、とくとくと動いているんです。
と胸を張るアイ。
うわなんだこりゃ、つるぺったんもいいとこだな!
と笑うアリス。
コンマ一秒の攻防。アリスは鉄拳制裁を食らう。
「アリスさんにはデリカシーがないのですか!」
「なにそれ焼いたら食える?」
むぎー!と頬を膨らませるアイに、アリスは軽く笑って手を伸ばした。
墓守の格好じゃなくて、かわいい、アイのような女の子にぴったりの秋の服。その肩にちょい、と触れた。
「死ぬんじゃないかと思ったよ」
「へ?」
「夢破れて、しかもそれも俺なんかの所為で。お前が夢に殉死するんじゃないかと思ったよ」
「……そう、ですね」
「でもさ、お前はきっとまた新しい夢を見つけて歩んでいくんだ。お前の夢は誰かを幸せにすることに繋がってたんだろ」
「ええ」
「お前がそれを忘れなきゃ、また道は続くもんさ。せっかく拾った命だ、それを見てみたいような気もするし」
魔女裁判の真ん中でお前が叫んでくれたこと、感謝してるんだぜ。
と、アリス。
アイはすっかり嬉しい気持ちで頷いた。
「私はまず今日をしっかり生きるんです」
七・八巻のキャラは流石にアニメ派に優しくなさ過ぎるので、ここでストップします。
アニメ派の首傾げは兄妹を巡る挿話かな。
アニメは世界塔すっ飛んだので。
しあわせのはなし でした。
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