稲妻1
□彼と俺らの戦わない一日
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彼と俺らの戦わない一日
※聖帝は豪炎寺で間違い無い、と思いたい。てかそうだよね……?
GO!迄の10年間捏造。豪円風味で。
彼が見る夢はいつも痛々しい少年の笑顔から始まる。
今から10年前。
彼と彼の最愛の仲間が世界を盗ったあの日から、日本は、日本のサッカーは、何かがズレていった。
サッカーは学校に格差を付けた。
サッカーの弱い学校は蔑まれる。嘲られようと馬鹿にされようと、文句を言えなくなった。
負の感情の矛先は、当時世界を穫ったメンバーに、特にそのキャプテンに向いた。
『お前が勝ったりしなかったら、何も変わらずにいられたのに』
円堂は今日も傷だらけだった。
頬にはガーゼ、額には絆創膏。ゴールキーパーの命とも言える手には――正確には手首だが――サポートが巻かれている。
彼が心配して気遣っても、へへ、と力なく笑うばかりの円堂は、何処から見てもかつての栄光の陰はなく。
「……円堂、無理するなよ」
「心配すんなよ豪炎寺。大したこと無いんだからさ」
始めのうちはそう彼をいなした円堂にも次第に困憊の色が翳り。
ぽつりと、独り言のように呟かれた言葉は彼の精神をも飲み込んだ。
「俺達、負けてれば良かったのかな」
彼はその時から変わった。
円堂を、他のチームメイトを気遣いながら、内心で考えるのは別のこと。
誰も傷つかないサッカーを。
真っ直ぐな彼はその考えがどれほど愚かしく、純粋故に残酷か知らなかった。
医者の息子だから、金持ちだから。
そんな理由で一人蚊帳の外のように何もされず、ただ仲間が虐められる姿を見て来た彼の脳裏に正常な考えは歪んで映り。
彼が導き出した考えは捻子くれた正義になった。
『俺は、サッカーを管理する。誰も傷つかず、過たず、ただただ、純粋に楽しめる世界を作るために』
「豪炎寺がフィフスセクターを創設したなら、止めるのは俺じゃなきゃ駄目だと思うんだ。
豪炎寺は高校に行ってから変わった。……いや、環境が豪炎寺を変えたって言った方が正しいのかも知れない。
ただ、責任の一端は俺にあると思うんだ。俺が、あの頃もっと強かったら」
「思い詰めるな、円堂。誰が悪い訳じゃない。
どんな理由があれど、間違うのは豪炎寺本人が選んだことだ」
「確かこの前キャプテン、彼に会ってきたんだっけ? どんな様子だった?」
吹雪の問いに円堂は肩を落として力無く首を振った。
「取り付く島も無し、か」
「ああ。自分のこと、豪炎寺だとすら言わなかった」
「ったく、相変わらずだな、豪炎寺は。なぁ円堂、フィフスセクターに乗り込もうぜ。
皆の前に引きずり出してやる」
いきり立つ染岡を制し、鬼道は円堂の様子を見る。円堂は幾らか気落ちしているモノの、彼らしい希望を湛えた瞳を宿したままだきった。
吹雪がそっと促すと、意を決したように口を開く。
「乗り込みはしない。けど、皆で会いに行こうぜ、今の豪炎寺に」
「円堂、」
「心配してくれてるのはありがとな、鬼道。でも、覚悟決めなきゃいけないと思うんだよ。
俺豪炎寺の、高校生の頃の笑った顔が思い出せないんだ。いつも歪んで悔しそうにしてるだけで。だから」
「じゃあ」
染岡が僅かに声を張る。
こくりと頷き、円堂は漸く微笑んだ。
「豪炎寺を問いただすんじゃなくて、笑わせに行こうぜ」