稲妻1

□この手一杯に君への気持ちを
1ページ/1ページ


この手一杯に君への気持ちを



「なんていうか、ベタって言えばいいのか?

 良かったなって言えばいい? それとも御愁傷様か?」

「……お前ホントうぜぇ……」

「助けてもらった割に態度が大きいのはどちらだ」

「……あームカつく」


 傍らでぶすくれるデスタを横目で見やり、確かに間違えられなくも無いな、と頷いた。

 相応の格好をしていれば彼とて、それらしくも見えるのである。











 事の顛末を語るとしよう。

 1000年の眠りにつくまでに僅かに時間に時間を持て余した私は、下界に訪れていた。

 実は円堂守と対戦して以来、幾度か人間の町には訪れているのだが、それは円堂には言うまい。


 今日は何をしよう。

 人間の子どもに混じりサッカーの真似事に興ずるのも些か飽きた。


 ぶらりぶらりと、普段は通らない裏路地を通ってみることにした。

 表通りと違い、何事も裏と言うの不浄である。

 
 もしかしたら、あいつはこんな所を好むのかもしれないな。


 と、脳裏に浮かんだ姿は和解したようなしなかったような、チョコレート色の髪をした男の姿だった。

 思わず舌を打つ。

 思い返すのも腹立たしい。


 やっぱり引き返そう。


 自分に言い聞かせ、中ほどまで進んだ路地を逆戻りしようと回れ右を仕掛けた所で。


「離せっ……離せっつってんだろ?!」

「えー、こんな所に一人で来たかわいこちゃんが悪いんじゃないかなー?」

「かわっ?! ざっけんな、俺は男だ!!」

「あっはは、面白い冗談だね?」


 ………。

 ……………は?


 思わず目を擦ってしまった。雑菌が目に入るかもしれない緑内障になるかも後で眼科行かなければ。

 って、そうじゃなくて。

 狭い裏路地。

 見覚えのある影が、下卑た男たちに囲まれていた。


「あれは、デスタか?」


 見れば見るほどそうにしか見えないのである。

 いつも憎たらしいほど余裕の笑みを浮かべていた彼の表情が、頼りなく不安に翳っている。


 ぷちん。


 何かが切れた。


「おい、貴様たち」

「へ?」

「お、お前、セイ、」

「その女は私のものだ、返せ」

「へぇ? 何々? 美男美女カップル?

 うっわ、キモ、死ねよバーカ」

「違うよー、羨ましいだろお前こそ馬鹿じゃね?」

「ウッセ、死ね」


 デスタは女呼ばわりされたことに腹を立て、男達は出てきたのが見た目はほそっこい私だったせいで笑い転げ。

 人間ごときに馬鹿にされることに馴れていない私は二度目の切れる音を聴き。

 常に常備してあるサッカーボールを蹴り上げた。


「散れ」


 人間の底辺のような男達はそれだけで易々と逃げて行き。

 後には、いまいち消化不良な私とただただ呆然とするデスタが残された。










 そして話は冒頭に戻る。


「お前は私に感謝の意を表しこそすれ、私は煙たがられる理由が無い。

 ……いや、お前を助けたのは半分は私の意志だから、煙たがられてもしょうがなくも無いのか」

「どっちだよ」


 呆れ顔のデスタを睨み付け、大きく溜息をつく。

 助けたことは、私だって無意識であり故意でもある為その後の対処など何も考えてなどいなかったのだから。


「私は、私の思う様お前を助けただけだ。

 お前はとても危なっかしいから、目を離すとすぐこれだ。

 全く、何かと私をひやひやさせて………って。

 聞いているのか」

「あー……あのさ、それって、直訳すると俺の事が気になって仕方が無いって事にならないか?」

「……どういう意味だ」

「それを俺に言わせんな!!」

「………まあいい。とにかく、お前は下界に行くなら私に声をかけてくれないか?

 この手に届く範囲にいてくれないと、後で対処するのは私だし、面倒ごとが起こるのは私だって真っ平だ。

 今回の件で分かっただろう?

 お前はどちらかというと女顔だし、実際間違われてもしょうがないくらい可愛いこともなくもないし、性格が捻くれてるのは難点だが、」

「頼むそれ以上は何も言うな……!!」


 悲鳴のように、懇願するように、デスタは声を上げた。

 きょとんとして見返すと、もう知るかと言わんばかりに表通りへ歩き始めた。


「おい、デスタ」

「わかった、わかったからそれ以上何も言うな、言わないでくれ。

 礼はする、今度からお前に声もかける。

 だから、ケーキバイキング奢るからそれ以上何も言うな」

「……ああ……?」

「ったく、無自覚にも程があんだろお前」

「は、」

「言っとくけどなあ、お前に助けてもらったの感謝してなくもねぇから。

 で、お前が何で俺に付きまとうのか。

 その理由がお前に分かったときに返事するのも癪だから今のうちに言っておくけどなあ、答えはイエスだばーか」

「………何の話だ」


 ばーか、と連呼しながら歩くデスタの歩調はどこかテンポ良く。

 私は僅かな心地よさも覚えながら、彼の隣に並び歩く。


 


 目当ての喫茶店は、すぐ其処だ。







▼無自覚の告白










三萬打フリリクまるも様へ。
よってお持ち帰りはまるも様のみに限らせていただきます。
セイデス久しぶりでしたが、ご期待に添えていたのでしょうか……(ドキドキ
ご一報下されれば何よりです。

それにしてもうちの悪魔さんと天使さんはケーキバイキング好きですね^^;

 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ