稲妻1

□NL詰め合わせ
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ヒロ玲


「きっと私はお前がそばに居なくても生きていけると思うんだ、ヒロト」


 唐突に呟いた言葉は淡々と事実を述べる色合いだった。

 ヒロトは酷く困惑し、しかし取り乱すことは無く、玲名を見つめ問いかけた。


「どうして」

「私は、自立できなければならないから」

「何故?」

「……潰れてしまわないように」


 失うことを恐れるくらいなら、はじめから何にも執着しなければいいじゃないか。

 玲名はひっそりと囁いた。

 納得がいかないのはヒロトのほうである。

 そんなの、と言い掛けた唇は玲名自身の唇によってふさがれた。


「ん……」


 舌を絡めようとすると、玲名は僅かに嬌声をもらし、しかしヒロトの胸を押して逃れる。


「玲名?」

「……悪い、ヒロト。私にもよく分からないんだ。

 お前と一緒に居るとたまに酷く息苦しくなる。何もかもを放棄したくなってでもそれじゃあダメなんだよ私は。

 お前のことを愛している自信はあるけれど、逆に、嫌いになれるような気もしてしまう。

 弱いんだ、私は。だから今はお前の傍に居たくない。

 一人になればきっと私は生きていける」

「………玲名は、怖いんだね」

「…………ああ」


 元の居場所は家主をなくしたまま。

 いずれ戻って来ることが確定しようとも、ハイソルジャーとして生きた数年間の苦い思い出は一生付いて回る。


 耐え切れないのだ、この重さに。

 同じ気持ちと思い出を共有するヒロトに。


 ぽたり、と玲名の瞳から大粒の涙がこぼれた。


「……君が泣くのをはじめてみたよ、玲名」

「お前にだけは、絶対見せないって誓ってたから」

「泣いてよ玲名。君が俺と生きるのが嫌だって言うなら甘んじて受け入れる。

 だけどそのまま崩れ落ちるのは許容できないよ、俺は。

 ………好きだよ、玲名。君が俺から離れたくなっても、俺はきっと手放せない」

「………」


 返事はなく、音もなく。

 ただ身を震わせ嗚咽すら上げることすらなく泣く玲名の背をヒロトはそっと撫でた。


「だから、一緒に生きよう、玲名」







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