稲妻1
□サッカー部、始めました。
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サッカー部、始めました。
「なんだってぇぇぇぇぇぇぇえええ?!!!」
亜風炉照美の素っ頓狂な声が響き渡る。
甲高いその声は両隣の二人と、目の前の教師の鼓膜を突き破るかのごとく。
「落ち着け亜風炉。人の話を聞くことをそろそろ覚えろ!!」
「そんなの無理だよ。……少なくとも、私はもう諦めた」
「………はぁ」
南雲の諌める声も只虚しく、涼野はその表情を呆れにも似たものに変えていくのだった。
話は数時間ほど前に遡る。
事の起こりと言うか最早顛末にも正しい。
三人揃って推薦入学が適わなかったのである。
本来、U15の韓国代表ともあれば、サッカー特待生として名門校に迎え入れられてもちっともおかしくない。それどころか至極当然の流れともいえる。
しかし、特待生とてラインと言うものがある。
即ち、人並みに勉強が出来るか否か。
「え、関数って何? 方程式? 何ソレ美味しいの?」
「数学が食えてたまるか!! 何お前、どれだけ勉強してこなかったの? 中卒じゃ働き口なんてないぞ?」
「南雲君生っぽい話やめて!! 第一僕は君が人並みに勉強できているところが解せない!!」
「五教科平均40点が平均か阿呆!! 下回ってるに決まってるだろが!!」
「……晴矢、此処分かんない」
「あー……ってなんで正負の数で既に引っかかってんだよ?! 足し引きだそんなん!!」
公立高校受験日一週間前の惨事。
尻に火が付くには少々遅すぎた。
滑り込みで入った高校は、全国でも下から五指に入るほどレベルが低い。
生徒は少なく先生も気だるげ。授業は半分近くの生徒が居眠りをする始末。
入学三日目、体裁だけを取り繕った対面式が催された。
委員会紹介、生徒会活動について。そして最後に行われた部活紹介で三人は目を見張った。
サッカー部の紹介が、無かった。
「何で僕らが入る学校なのにサッカー部が無いんですか?!」
「いい加減にしなさい。貴方達がここに入学したのはサッカーの為ですか? 最低限の学問を身に着けるためでしょう!
そんなにサッカーをしたいのなら、自分達で作りなさい」
「先生冷たい!」
「亜風炉、やめとけ。風介、戻るぞ」
「そうだね。亜風炉、教室に戻って対策を練るほうがよっぽど有意義」
「………はーい…」
不満そうな亜風炉を抱え、三人は教室をあとにした。