稲妻1

□Hello,Goodbay
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Hello.Goodbay


 夢を見た。
 つい、二ヶ月ほど前のことを反芻する夢を。


『私は君を愛し――……


 滑り落ちた手を掴む事さえ適わなかった悪夢。
 別れさえ言わせて貰えなかった刹那。
 俺はアイツに何もしてやれなかった。


 突然だった。
 日本戦が終わってから、あいつは狂ったように毎日毎日サッカーに明け暮れてた。
 エイリア時代なんて比じゃないくらいに。
 だから、すぐに壊れた。

 心が枯渇して、枯死して、壊死して。

 
――大半の感情が死んでるのに。
  何でだろうね、南雲君に対するこの執着心。
  一番厄介な、妬みと恋情だけが残る、何てさ。


 亜風炉はそう洩らした。
 人形の様にただ凍結した心は、今更ながら炎ごときではどうしようもない事を知って、落胆した。
 深淵の闇の色は、灼熱の猛々しさを飲み込んで。


 後に残ったのは、玩具となった俺だった。



「何処に行ったままなんだよ、風介。」


 谷底に花束を放り投げた。
 馬鹿野郎、と呟いて。



 あいつが俺を最後に連れてきたのがこの谷だった。
 断崖絶壁で、落ちたら死ぬんだろうな何て思った。
 心中してくれと言うわけでもなく、あいつは小さく首を振った。


――ごめんね、晴矢。


 そう言ったあいつの笑みは、ついこの前までのいつもと変わらない笑顔だったから
 ……油断した。

 気づかなかったんだ、あいつが絶壁の淵に立っていたことなんて。


――そこ、危ないって、こっち来いy……

 

 目を向けたら、あいつは谷に身を委ねたところで。
 全てがスローモーションだった。



――私は君を愛し……


 飛沫は言葉さえ引き裂いて、伸ばした腕は宙を切って。


「そろそろ別れを言わせてくれよ。」


 あいつが、風介が、見つからないから諦めくれないんだ。
 今に後ろから声を掛けられそうな気がして。

 でもわかってる。
 この谷の何処かであいつが骨になってる事は。


「もう、いいよな。」


 淵に立って大きく深呼吸した。
 オオォォオ、と底の見えない谷は唸ったけれど。


「一時の別れだよ、風介。」


 歪んだ俺らの恋物語は此処で一回お別れさ。
 来世に持ち越しまた反芻して。

 次こそは全うに生きていければいい。




笑ってさよならと反芻すればよかったのですか
(やっぱりお前の居ない世界で笑う事は不可能だったんだよ。)




死×稲妻企画』様提出文。

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