稲妻1

□私の傘の占有率=貴方の愛情
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私の傘の占有率=貴方の愛情


 雨の降る日だった。
 敗退した米国チーム、ユニコーンが本国へ戻る日は。
 ダーリンは、少しだけ痛々しい笑顔を向けて、「すぐ日本に戻ってくるから」と言った。
 負傷した足を引きずりながら。
 秋から聞いた話だと、ダーリンは米国で集中治療を受けるらしい。
 阿呆、それじゃ日本に戻ってこれるわけ無いやんか。

「もう、二ヶ月経ったんやな。」

 ポツリと呟いたら、塔子は少しだけ首を傾げてから納得したように頷いた。

「あぁ、一之瀬が帰ってから?
 だーいじょうぶだって、あいつ、格好付けだけど約束は守るやつだよ。」

 バン、とうちの背を叩いてにかっと笑った塔子。
 あんまり強く叩くものだから、思わず咳き込んで、ぜぇぜぇと空を仰いだ。

「えらい雨の降りそうな天気やな。」
「うん、今日は午後から大雨だってさ。」
「ほんま?! うち折り畳みしか持ってへん。」
「送ろうか?」
「いや、いいわ。水も滴るなんとやら、やろ?」
「リカ、それは男を褒める方。」

 呆れた様に塔子はうちをたしなめた。
 
 本当はな、と言いかけて、だけど飲み込んだ。

 ――雨の日の行ったダーリンだから、きっと雨の日に帰ってきてくれるんやろ?

 わかってる、ただの夢物語だ。
 親しくしてくれたマークやディランから、昨日も近頃の様子を聞いたばかりだし、幾度となく雨降りの日は現れている。

 今日こそは、明日こそは。
 そう思っているうちに、いつの間にか二ヶ月も経ってしまったけれど。

「あ、塔子、迎え来たみたいやで。」
「あぁ。本当にいいのか?送らなくて。」
「構へん構へん。じゃあな。」
「うん、またな。」

 黒いリムジンに乗り込んだ塔子に別れの挨拶して、ふう、と小さく溜息をついた。
 嫌になる、女々しい自分が。

「帰るか。」

 降り出した雨に、顔を歪めた。


+ + +


「なんでまた来てしまうんやろ。」

 ぼうっと歩いて気づけば、大江戸国際空港に来ていた。
 雨の日に気を抜いているとすぐにそうなる。
 よっぽどダーリン欠乏症に違いない。

 ――もうえぇ、ダーリンが帰ってきたら人目なんて気にしないで抱きついてやるっ!

 何だってこんなに会いたいのはうちだけ?
 電話してもダーリンはいつもいなくて、ダーリンから掛かってくることはなくて。

「ダーリンの阿呆。」
「だーれが阿呆だって?」
「だから、ダーリンの・・・え・・・?」

 抱きしめられた。
 甘く香ったこの香りは紛れもなくダーリンの香水の香りだった。

「ただいま、リカ。」
「・・・あ・・・ダー、リン。」
「うん、待たせて、ごめんな。」

 にこっと笑ってくれたのは間違いなくダーリンだった。
 両足で立って、ピンピンしてる、ダーリンだった。

 言いたいことはいっぱいあったはずなのに、次いで出たのは嗚咽と涙だけで。

「帰ろうか。」
「う、ん。」
「あーあ、それにしても、何でリカが此処に居るのかな。驚かせようと思ったのに。」
「驚いてるよ!!知らんかったもん、ダーリンが帰ってくるなんて。」

 ずっと待ってた。
 
 そう言ったら、人目も憚らないで、ダーリンはうちに小さなキスを落とした。

「雨の日だね、今日は。」
「ごめんな、傘、この折り畳みしか。」
「いいよ、さ、相合傘して行こう。」

 狭い傘の中は、うちとダーリンの体温で、恋情で、ほのかに暖かかった。


 

半分こ
(待ってたよ、この傘と一緒に)







ナンバーバイン』壱兵衛様へ相互記念。

Escapism Life』より御題拝借いたしました。

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