稲妻1

□信じなくたっていいよ、それで幸せなら
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信じなくたっていいよ、それで幸せなら


「何で・・・言ってくれへんかったの?」

 血が滲んで口内が鉄の味に満ちる。
 目の前でベッドにふしたままのダーリンは、その様子に気づいたのか否か、小さく微笑んで、うちの髪を梳いた。

「心配、掛けたくなかったから、さ。」

 ――嘘、嘘、嘘。
   秋には言ったくせに、アメリカに一緒に来てくれって言うたったくせに。
   本当は、うちじゃあかんのやろ?
   ダーリンは優しいから、うちのこと突き放せんのやろ?
   知っとった、わかってたんや、秋には適わんことくらい。

 そう入ったら、ダーリンは貼り付いたかのような笑顔で、凍りつくように乾いた声で、否定した。

「そんなこと、
「否定せんでえぇよ。“ダーリン”はほんま優しすぎや。」

 ベッドの上に乗った。
 小さくキシ、と音を立てて、病室の狭いベッドはうちを拒絶する。

「ねぇ、“一之瀬”。」
「・・・リカ?」

 困惑するような表情に一種の安堵がこめられてるの、わかるよ。
 知ってた、いつもダーリンがうちと話した後大きく溜息付いてるの。
 だけど鈍感なふりをした。
 たまに秋を見る時の切なそうな目を、気づかないふりをした。

 ――別れて

「もうつらいんや、一之瀬が切なそうに、愛しそうに秋の事見てるのを見てるんわ。
 知っとったんよ、自分が、あんたに纏わり付いてただけだって事くらい。」
「リカ、それはちが、
「何が違うん?なぁ、うちが我慢しとったら、あんたはうちを好きで居てくれた?
 秋の事が目に入らないくらい、愛してくれた?
 違うやろ?! 一之瀬一哉は、木野秋が好きで好きでしょうがなかったんやろ?!!」

 少しだけ霞んだ視界は、一之瀬がどんな表情をしてるのかわからないように丁度フィルターになった。
 また、安堵の表情を浮かべているのかな。
 一度くらい、本当の君をうちに見せて欲しかったな。
 そう言ったなら、優しい君は、笑ってうちの手を握って優しいキスをくれるだろうね。
 あぁ、なんて簡単で、陳腐な、誘惑。

 勘弁な.

「・・・勝手だね、リカ。」
「え、
「俺は、確かに秋に着いて来てほしいっていったよ?土門と、秋に言ったんだ。」

 彼らは、昔なじみだから、と一之瀬はそう言ってうちの髪をまた梳いた。

「だって、リカに、悲しい思いさせたくないじゃないか。
 いつ壊れるか分からない体で、そうしてリカの前で突然倒れるような無粋なまねはいやだったんだよ?」
「嘘、信じない、信じない、じゃあなんで秋の事見てたん?!」
「そりゃあさ、秋が円堂のこと好きなの知ってたから。円堂、もてるからさ。
 秋がこのままじゃ報われない気がして、それで、ちょくちょく話してたんだよ?」

 ――まだ、信じてくれない?

 無理だよ、疑心暗鬼のうちには、もう一之瀬が優しいから、慰めてるようにしか聞こえんの。
 ごめんな、勘弁な、信じるって、もう難しいねん。

「信じなくたっていいよ。
 ただ、ずっと傍に居て欲しいんだよ、リカ。」
「っ・・・
 何でうちなん?! えぇの、本当は秋が好きなんとちゃうの?
 うちでえぇなら、ずっとずっと纏わり付くよ?!
 歪んでたって間違ってたって離れられへんよ、後悔するよ、うちを選んだこと!!」
「なんで、俺がリカを選ぶんだから、後悔なんてするわけ無いだろ。」

 ――後悔なんてさせないし、しないから。
   だから傍に居てよ。

 優しい優しい懐柔だ。
 あぁ、もう駄目だよ。

 差し出された手を、うちはもう、取ることしか出来へんかったんや。

「ごめんな、信じられへんで。」



縋る
(嘯いたまま、騙されましょう)




水葬』様から、御題拝借致しました。


久々の一リカ、ゲーム見てたらこうなった、何故こうなる。
一之瀬はリカをちゃんと好きなんだけど、信じきれなくて、一人で傷ついてくリカ。

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