稲妻1

□愛憎のArk
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 好きだとか、嫌いだとか。
 そういう感情は何の形であれ相手を意識しているからこそのものだと思う。
 だから、気にかけていればそれは好意か嫌悪かの両極端になるわけだ。
 片方に傾けば、もう片方は彼方だと思っていたけれど。

「どうやらそれは間違っていたようだ。」

 そう零したら、不動は目を瞬かせてから、いつもの小馬鹿にするような笑みを見せた。

「そりゃそうだろ。愛憎、なんて言葉があるくらいなんだからよ。」

 人の心なんざ案外単純だろ、と言うのはきっと、彼自身がそれを身を持って体験してきたから。
 脆くて儚いのは、心も同じ。
 好意と嫌悪は両極端ではなく、コインの裏表なのかもしれない。

 あぁ嫌いだと偽った。
 本当は誰よりも愛していたけれど。
 嫌悪一色だった不動への想いはいつしか興味に、好意に、恋情に、色を変えて。
 
 それに俺は子供っぽい御託を並べて心を塞いだ。
 そうさ、目線を反らして、耳を塞ぐなんて簡単だったんだ。

 だけど。

「不動。」
「あ?」
「俺は、お前を。」

 愛している、と言えなくて、代わりに引き寄せてキスを送った。
 抵抗されるかと思ったのに、案外静かに受け入れてくれたから、こっちが面食らってしまう。

 ざわざわと、隣の部屋から円堂たちの騒ぎ声が聞こえた。
 気にも止めずにいたけれど、やがてグ、と胸を押し返される。

「何、しやがる。」
「抵抗はなかったが?」
「それはっ・・・。」

 顔を真っ赤にしてぶつぶつと何かを呟く不動。
 今なら、と拳を握り締めて、さっきいえなかった言葉を搾り出した。

「愛してる。」
「・・・・・・は?」
「本気だ。」

 不動は大きな溜息を一つ付いて、遠慮がちに俺に抱きついてきた。
 
 これは、不動なりの返事、なのか。

「んな小っ恥ずかしいこと、よく真顔でいえるな。」
「そうか?」
「俺は何も信じない。」

 偽りも真実も、耳を塞いで聞かない事は自由だから、だから、とそう言った。
 その上で、だけど、と続いた言葉に、俺は強く不動を抱き締めた。

「だけど、アンタの言葉は、少しくらい信じてやってもいいぜ、鬼道くん。」

 小さく回された腕に、これが愛情なのかも知れないとふと思った。



耳を塞ぐのは自由だけれど
(信じて聞くことも自由だろう?)





『背骨』様へ提出文。
完全に俺得文ですね、すいません。
でも楽しかったです、ありがとうございました。

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