稲妻1

□呼吸
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 呼吸


 求めるものも、方向性も、始めから笑えるくらい正反対だ。
 俺が望むものをあいつは持ってないし、その逆も然り。
 自分にはないものに憧れると言うけれど、俺らの場合、憧れじゃなくて、恋情で。
 同姓であることに抵抗がないわけじゃない。
 それでも俺たちは互いを求めることしか出来なくて。

「ねぇ晴矢。」
「んだよ、風介。」
「どうしてこんなにも愛してるのに、こんなにも噛み合わないんだろうね。」
「・・・・・・さぁな。」

 ふ、と溜息交じりに漏らした吐息。
 風介は、俺の顎に指を掛けると、口付けてきた。
 俺の吐息を全て奪うかのように、深く、深く、深く。

「っは・・・風す・・・やめっ・・・・・・。」
「ふん。」

 離された口で荒い息をする。
 肺に雪崩込んだ酸素に咳き込んで、涙目。
 無言ににらみつけたら、彼は小さく笑った。

「涙めでにらまれても、迫力がないんだけど。」
「るせ、お前、長すぎんだよ、殺す気か。」
「半分。」

 そう涼しげに言い切る風介。
 それから表情を歪ませて、そっと俺の髪に触れた。

「君の吐息を全部奪って、私のものにしてしまおうと思ったんだよ。
 君が最期に吐いた吐息が私の糧になったらいいんじゃないかって思って。」
「・・・つまりなんだ、お前は俺に死ねと言いたいのか。」
「違うよ、けれどさ、何だろうね。
 たまに私は、私ごときが呼吸することにひどく嫌な感じがするだけ。
 息の根が止まったらって、私は狂っているのかもな。」

 くしゃりと髪をすく手には、力がこもっていた。
 
 きっと、この男は誰よりも多くの悲しみを見つめてきて、押し殺してきたのだろう。
 だから、怯えているのだろうな、とぼんやりした頭で考えた。
 俺には到底無理な話だ。
 どちらかと言えば楽観的な性分だから、彼の思いを理解するなんてそれこそ不可能で、一生かかっても無理に違いない。
 
 そっと、その手の上に手を重ねて、下ろした。

「狂っててもいいんじゃねぇの?
 そもそも俺とお前は分かり合えない領域にいる。
 俺は、お前と一緒に居られればそれでいいんだよ、充分だ。
 お前は違うかもしれないが。」

「・・・・・・そうだね。」

 悪かったな、と呟いた風介に頷いて、おまけに額にキスしてやった。
 ぱちぱちと目を瞬かせた彼に笑いかけて、俺は思い切り深呼吸した。

「息すんのだって、贅沢でいいだろ?」
「ばっかじゃないの。」



懺悔
(俺たちが空気を吸うのは、少しばかり贅沢すぎるのかもしれない)

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