稲妻1

□H/a/r/m/f/u/l
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H/a/r/m/f/u/l



「有害だから居なくていいよ。」

「・・・・・・え・・・?」

「あぁ、不動のことな。」


 そういった佐久間は歪んでいる。

 静かに微笑むほどの、冷静な歪みが彼に纏っているように。


「・・・お前がそういうのは分からなくもないが、その言葉は口に出すべきものじゃない。」

「そうだな、正論だ。だが正論が必ずしも俺に当てはまるとは限らない。
 ・・・あんなヤツ、存在しなければいい。」

「佐久間!!!」


 憎々しげに悪態を付く佐久間を、俺はどうしようも出来なくて。


「お前があいつの立場だとして、そう言われたら心は痛まないのか?」

「全然。」

「・・・だとしても、居ないからといってそういうことを口外にするな。周りの目も気にしろ。」

「周りの目なんて関係ない。俺は何を言われようと心が痛まない自信がある。
自分なんて存在しなければ良かったと、死んで、存在を無に出来たらどんなにいいかと、
そう考えることに何の問題がある?」

「お前の考えが、アイツと同じとは思えないが。」

「そうだろうな、同じであるわけがない。
 自分が歪んでいる自覚くらいはあるさ。けれど、俺にはお前の言葉を肯定できても、実践は出来ない。」


 あぁ届かない。

 そう感じた。多分、小さな価値観のずれなのだろう。
 
 けれど、そのずれはきっとずっと直らないものであろうし、こちらとて意思を変えるつもりは毛頭ない。


「俺は。」


そう言って佐久間は俺の目を真っ直ぐに見据えた。


「あぁ。」

「俺は、源田のその考えが一番正論で、正しくて、優しい選択だって分かってる。」

「あぁ。」

「けれど、それを俺が受け入れることはない。」

「・・・だろうな。」

「歪んだ俺には何があろうと自分の考えを改めることは出来ない。
 だから俺はアイツを肯定しないし、否定もする。」

「・・・あぁ。」

「それが俺とお前の徹底的な違いだよ。」


 自嘲気味に笑って、佐久間は視線を落とす。
 
 そして静かに呟いた。


「存在しなくていい有害は、俺のほう。」


 それがあまりにも本気に聞こえたから。
 
 俺は何も言えないけれど。


 黙って佐久間の頭に手を置いて、髪を撫でた。





異端
(だからといって責めるのは間違っている)
(知っているか、不動がお前を認めていること)
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