no title 4

□escape talk
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escape talk


「俺が言ってんのはだからそういう物理的な話じゃなくて、観念的な話での死なんだよ。

 んな、ご臨終が文字通り天国行きってことなら間違いなく俺がお前より殺しまくってるに決まってるだろうが。

 いいか欠陥、誤魔化しは良くないぜ。俺が言ってるのはけっきょく、どれだけ人を強制的に退廃させてきたのかって話だ」

「退廃、ね。そもそも人間失格、じゃあ革新的な人間ってどんな人間だと思う? 

 ぼくはそんなに馬鹿みたいに前向きな人間なんて一度だってみたことがないんだけど」

「ほらまたそうやって言葉尻をとらえて逃げようとする。悪い癖だぜ戯欠陥製品。

 その戯言はお前の逃げ口上なのかよ」

「逃げ口上で最高の武器さ。当たり前だろ。

 なにせぼくは誰よりも弱くて脆いんだから」

「はっ、神経だけは図太そうなくせによくいうぜ。俺が確かめてやろうか。

 絶対、お前の神経は今まで解してきたどの体より太いはずだからよ」

「そうやって困るのは君だろ。鏡を失ったら君は何に変質するんだい」

「かっはははは! お前、やっぱ図太いよ。さいっこうに殺したい、傑作もいいとこだぜ」

「それは光栄だな、殺人鬼。もっとも、ぼくは君に殺されるつもりなんて毛頭ないんだけど」

「そりゃあ奇遇だな。俺もお前を実際に解すつもりは滅法ない」

「ふん、口だけだな全く」

「うっせえ口だけはお前の専売特許だろ」


 あーあーあー、と零崎はぐうっと背伸びをした。ホントやんなっちまうぜ、と言わんばかりにぼくのことをにらみつける。

 ぼくはどこ吹く風、なんて顔をして水を一杯、飲み干した。

 そもそもおかしいのはあっちの方。必要最低限の買い物を済ませてマンションに戻ってくると、零崎はぼくの部屋の前でよおっと片手をあげていた。

 なーなー暇だから鏡とおしゃべりでもしに来たんだけど勿論部屋あげてくれるよなそうだよななんせ俺の鏡だし、と某赤い請負人ばりの押し切りでぼくの部屋に上がり込んだ。

 全く、馬鹿らしいにもほどがある戯言である。

 それとも勝手に侵入しなかっただけ気が回ったと感動すべきなのだろうか。


「ところでほんと、君何しにきたの。まさかこんな不毛な言い争いをしにきた訳じゃないよね」

「もっちろん。この俺がなんの目的もなくふらふらこんなとこに来ると思うかよ」

「ふらふら根無し草してるやつの言葉とは思えないな」

「うっせ。……と、いやいやいや、聞いてくれよ欠陥製品。俺はな」


 そこで零崎はきょろきょろとあたりを見渡し、それから声を潜めてこういった。


「今、ストーカーから逃げてんだ」



 …………………………は?








 何のことはなかった。ようするに、零崎の放浪癖を心配(とはちょっとベクトルがちがそうだけど)した家族が、零崎の足跡を追って全国どこでもどこまでも追いかけてきているらしい。

 それは両手首を失った女子高生であったり、はたまた女子高生に依頼された人類最強であったりするようだが、とにかく零崎はつかまりたくないそうで、逃げ回っているそうな。

 馬鹿じゃねーの、というのが正直な感想なのだが、勿論口には出さない。


「君がぼくの所に来た理由はまあわかったけど、最後の砦がぼくだったとしたらそれって場所の特定、すぐされちゃうんじゃないの?」

「あー、ないない。少なくともしばらくは。追っ手が全部砥石に向くように仕掛けてきたから」

「砥石さん誰だよ」

「ま、そのへんはどうでもいいだろ。

 とっころで、あの骨董アパートがなんでこんなに小綺麗なマンションに早変わりしちゃうわけ? 

 俺の記憶だとついこの間最終にこなっごなにされたと思ったんだけど」

「建設工事、早かったよ。光の速さ」

「人間の限界値とはいずこに」

「さあ。まあ、狐さんのポケットマネーでも絡んでるんじゃない?」

「うっわ笑う。まあ、自業自得だな。うん、ほんと、前の四畳部屋はどこにいったんだか」

「うるさいなあれはあれで住みよかったよ」


 零崎はソファから立ち上がると、しげしげと部屋を見渡す。

 前より広くなったぼくの部屋が物珍しいらしい。

 あちらこちらと見渡しては、昔の部屋を馬鹿にしたように言うので、ぼくは黙ってケータイに手を伸ばした。


「あ、哀k……あっ、すみません、潤さん? ぼくです。

 今ぼくの家に人間失格がいるのですがよかったらお迎えにあがり……はい、はい、あっ、女子高生派遣、あ、そうですか」

「ちょっ!? 欠陥製品てめえ裏切ったな!?」

「ぼくは君の味方になったつもりは元からないというか、どう考えても妹さんの方が正しくない?」

「そういわれたら確かに反論できねーけど!」


 ああああ、と頭を抱えた零崎に、ぼくはひょいとケータイを投げる。電源なんて入っていない。


「嘘だよ別に電話なんてかけてない。次はかけるけど」

「紛らわしいわ! ありがとうございました!!」


 ほっと胸をなで下ろす零崎。いちいち感情表現がオーバーだ。

 ぼくは押入から掛け布団を引っ張りだして、零崎に放り投げた。


「どうせ、何日か居候するつもりなんだろ」

「お、おう」

「まあ、君にはいろいろ借りがあるからね。精算させてもらうよ」

「命の借りにしては安上が……ああいえナンデモナイデス」

「うん」

「ったく、傑作もいいところだぜ」


 どーもお借りします。と零崎は布団を折り畳む。そのソファ使って、とぼく。


「ああそうだ、人間失格」

「なんだよ欠陥製品」

「今までぼくはきっとそれなりに多くの人を殺してきたけど。

 今、少しずつ人を助ける方にシフトしようとしてるんだよ」

「知ってる。だからお前は世界を救ったんだ」

「今のぼくの、将来の夢を教えてやろうか」

「おお、聞かせろよ」

「ぼくは、潤さんみたいな請負人になるよ。だから君を助けるのは、零番目のぼくの依頼人ってことで」

「……かっははは! そりゃあいいや、頑張れよ、戯言遣い」

「ああ、頑張るよ零崎」





▼時は絶えずしてまた前進する



 

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