no title 4

□たどりつく
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【To be continued? Yes or No.】


 報われなかった話をしよう。

 そうだなあ。たとえば、とある殺し屋が殺人鬼に恋をした話。

 誰かに凭れることを禁じられた殺し屋は、最後は自らの手で、結んでいたはずの絆を切った。幸せになるという可能性を、食らい尽くした。

 愛という感情はえてして強さも弱さも表裏一体だ。そして、感情のとらえかたは千差万別。

 つまりのところ。どうしようもなく、「個人として強くあろう」とし過ぎてしまったのだろう。それは他人を切り捨てる行為で、他人を弱さと断定してしまった行為で、だから。



「君がヒトを必要とするのなら、俺としては協力を惜しむつもりはないのだよ」

「……ぎゃ、はは。お前は変な奴だなあ直木飛縁魔。けどまあ、ありがたい助言だと思っておくよ」


 そういって匂宮出夢は、フェンスを乗り越えた。

 中学校の校舎の屋上は、「人喰いの出夢」なら落ちたところで傷一つつきはしなかっただろうけれど、今の彼はそんな強靱な体も精神も持ってはいなかった。

 ただ、「人喰いの出夢」の残像をそれっぽく手にして、もう掻き消えてしまったはずの過去を追っている、ただの少女だった。


「君自身がその大切な相手に制約をかけているのさ、匂宮出夢。

 自分のことを思い出して欲しいと思う傍らで、それを諦めていることがないとは言わせないよ。

 これは、君が幸せになるための奇跡だ、可能性だ。

 それを君自身が心から掴みとろうとしない限り、君は何度だってただ同じ繰り返しで、決して大切な相手に出会い直すことなんて出来ない。

 バッドエンドはそれこそよりどりみどりなのだからね。

 通じあえずに一人きりで行き場のない感情を抱き、そしてみじめに命を絶っていく。

 ああ、君はなんて悲しみにあふれた可能性だろう。

 でもまあそれでも俺は、いつか君がハッピーエンドに辿り着く可能性に賭けているのだけれどね」


 強くなりたいとこいねがい、努力するという行為は、既に強さに結びついているものなのだよ、匂宮出夢。


 そんなことを胸中で呟いたと同時に、彼の姿は俺の視界から消えていた。飛ぶことを覚えた体は、あまりにも死を簡単に受け入れすぎる。 


 匂宮出夢が自ら死を選ぶのを俺はもう何度繰り返してみたことだろう。そのたびに、俺は切なくなる。

 もう諦めているくせにやめきれないその、強すぎる弱さが、悲しくなる。


「けれど、そんな君を俺は応援すると決めたのだよ、匂宮出夢。せっかくの死出の旅だ。次こそはうまくいくようにと、願ってやろうではないか」


 

To be continued? Yes or No.



――――Yes .





 
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