no title 4

□嘘つきの水葬
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嘘つきの水葬


 ――『怪物』の声がして心臓を飲み込んだ 『嘘をつき続けろ』ってさ


 昔から本音を話すことができない奴だ、とオレはカノをそんな風に断じている。

 にやにやとした笑みを張り付けて、すべてを茶化して。

 ただしそれをあいつの生来の性格だと感じたことは、実は一度としてなかった。

 本来のカノはもっと、ずっと、臆病なのだと。

 それこそ、自分とそう変わらない物なのだと。

 そう思っていた。


「なあカノ」

「なんだいキド」

「お前、泣いたことはあるか?」


 ある時、オレはそう聞いた。

 カノは幾度か目を瞬かせた後、にへらと笑った。


「そりゃあ人間だもの。泣いたことがないわけは、ないよね?」


 その答えにオレは確信した。

 カノは。鹿野修哉は。


「――そう、か」


 人ではない怪物になりかけている、と。







 ―― 僕は変わらない ニヤけそうな程、常々呆れてる



 カノって付き合い結構長いんだけど、まあなに考えてんのか未だにぜんぜん分かんねぇっスわ。

 ってゆーか、ちゃんとした思考回路があって言葉を発してるのかも正直オレには疑わしいんスけど。

 もちろん、そんなカノが嫌いかと聞かれりゃオレは首真横に振りますよ?

 トーゼン、大好きなヤツですから。

 でもなんというか。

 カノの前にいると楽しさの前に、物悲しさが先立ったりするんスよねえ。


「セトってさ、結構鋭いよね」

「お褒めに与り光栄ッスね」


 にっこにっこと、本心を決して見せない微笑みが今日もカノの顔に貼り付いている。


「オレは」


 小さく深呼吸して、オレはカノの正面に立った。


「カノのことなんて、ちっとも分かんない」





 ―― もうなんか収まらない ネタ話だって体で一つどう?



 世の中を水槽のようだと思うことがある。

 電子機器であふれる狭い水の中を、ヒトという塵芥にも等しい小さな魚が無限と勘違いして泳いでいるのだと。


 死んだら遺体は水葬がいいなぁ。

 そんなふうにつぶやくと、キドは僕の頭を無言でぶっ叩いた。あーもう、地味に痛い!!


 ヒトを騙すこと。ヒトを欺くこと。それが僕にはひどく当たり前のことで、同時にひどく嫌いだった。

 小さな魚を網に掛けてからめとる。その単純なようで命を殺める行為に、僕は辟易していたのだ。

 嘘を吐き続けた心はとっくに麻痺して疲弊している。

 もしかしたらもう欠片もなくなっているかもしれない。

 僕が感じているすべてが、嘘っぱちのニセモノかもしれない。

 魚を網に掛けたつもりで。

 網に絡めとられて酸素を失ったのは僕のほうかもなんて。

 それこそ。


「なんて、ね」


 嘘っぱち。

 にっこりと笑ってみせれば、呆れたようにキドは大きく溜息をついた。


 そうそう、僕の心なんて、もうハリボテのスクラップ。




 
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