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NO.6 紫ネズ

※紫苑が大学の薬学部に通っててネズミが町の劇団員で、同居してるパロディ。
過去拍手「Y」と「薬理作用」の続き。


共用試験の二日前



「ネズミ、ちょっと手伝って欲しいんだ」


 四年次から五年次、実習へ出る為に必要な「共用試験」は二日後だった。

 普段からこれ以上なく手抜かりなく勉学に励み、予想問題演習では危なげなく満点に近い点数を叩き出す紫苑だが、ネズミにそう言った顔は少しばかり不安に翳っていた。

 リビングで自分の出た芝居の批評を読んでいたネズミは、振り向き様に見たその様子に顔を顰める。

 どうした、と聞くと僅かに上ずった声で、紫苑はこう言った。


「OSCEの練習相手になってくれないか」


 OSCE。

 学習者の基本的な臨床技能および態度(習慣)を客観的に評価するために開発された評価方法であり、「実地試験」、「模擬患者が参画したシュミレーションテスト」である。

 六年制大学の薬学部においては一般的に四年次から五年次に上がる際に行われるもので、これと「CBT」と呼ばれる、「知識および問題解決能力を評価する客観試験」を合わせて共用試験だ。

 CBTでは問題なく好成績を叩き出す紫苑だったが、OSCEにおいては波があるようで、(と言っても本人が不安がっているだけで教授は太鼓判を押していたのだが)その試験の練習相手として同居人のネズミを頼ったのだった。


「って言われてもさ。そのOSCE? の知識って全然ないんだけど」

「ああ、大丈夫。OSCEにも種類があってさ。僕が手伝ってもらいたいのは『患者・来客者の応対』って奴。

 相手側が知識ゼロって設定の試験だから、大丈夫だよ」

「それって練習してもジャッジがいないってことじゃねぇか」

「うん。だから。一応、だよ」

「ふぅん」


 まぁいいけど。

 ネズミがそう返事すると、紫苑はぱっと顔を輝かせる。

 助かった、ありがとう、恩に着る。

 そんな言葉の羅列にネズミは僅かに眉をひそめた。同居して、その程度のことを手伝わないほど酷い同居相手だったつもりはない。


「で、俺は一体何をすればいいわけ?」

「えーっと……そうだなぁ」


 取り敢えず……と紫苑は部屋の中に視線を走らせ、隅に寄せられた布団を一枚敷いた。


「患者への応対の練習、させて欲しい」

「何、寝ればいいの?」

「うん」

「設定とかある?」

「設定?」

「何の病気だ、とかこれこれこういう理由で診察受けてます、とか」

「ああ……いや特には」

「あっそ」


 そんじゃあどうぞ、始めてください陛下。そんな声音ががらりと年寄りめいたものに変わる。

 流石だなぁ、と小さく呟き、紫苑は問診を始めた。






「うん、助かった。ありがとうネズミ」

「それは良かった。っつーか普通に出来てただろ。淀みなく話すし迷いねぇし。

 これで不安だって、どこがって問いたくなるんだけど」

「君が知人だからやりやすかったってのが相当数あるとは思うんだけど。ほら、僕人見知りだし」

「ダウト」

「えー」


 間髪無く否定され、紫苑は苦笑を浮かべた。

 布団から起き上がろうとするネズミを阻止するかのようにばったんとその上に倒れこみ覆いかぶさった。


「はぁ」

「お疲れさん」

「ほんとに」


 そっとネズミが髪を梳くと、なされるがままに紫苑は体の力を抜く。

 ああ、緊張してたんだ。と、今更ながらに気付いてネズミは笑みを浮かべた。


「いけそう?」

「合格?」

「そう」

「うーん……CBTは多分。OSCEは家で練習するにも限界があるし。明日また大学でもう一頑張り。取り敢えずもう一回CBT過去問やって、」


 紫苑の机の上は資料と過去問とが乱雑に置かれていて、几帳面で神経質な紫苑が焦っていることが見受けられた。

 こんなこと言うのもなんだかなぁ、と思いながら、ネズミは紫苑に視線を合わせた。


「焦ってんのは分かるけど頑張りすぎ。もう今日は寝ろ」

「でも」

「寝 ろ」

「……うん」


 帰宅するとさっさとシャワーを浴びてしまうのは二人とも習慣で、着ている服も部屋着。

 あつらえた様に(実際あつらえたようなものだが)布団も敷いてある。

 命令口調のネズミの声は少しばかり甘やかで、紫苑は渋々と言った体でそのままネズミの隣に転がった。


「あんたなら、大丈夫だって」

「……ありがとう」

「ま、じゃあこれは餞別って事で」


 言うが早いか、ネズミは紫苑に一つ、軽いキスを送る。

 不意打ちに目を見開く紫苑だが、やがてふふ、と忍び笑いを漏らして隣のネズミに抱きついた。


「もう少し、欲しいかな」


 まだ、足りない。

 さながら肉食獣のような声色がネズミの鼓膜を揺らして。


「……あんた実は試験全然余裕だよな」


 溜息一つで諦めて、後のことは紫苑に委ねたのだった。






▼焦る気持ちを昇華して







OSCEの中身は丸々はしょりました。
だって知らないもの……!! 知識として知ってはいても実際何をどうするのかまでは知らない高校生のサガ。
ちゃんと共用試験については調べた上で書いてますよ?!
大体最近は地元大学の薬学部(オープンキャンパス)にも行っていないので資料不足は否めないのです。
しかしてこれ読んで薬学部に興味を持つ人とかいるんですかね。

というわけで現パロ第三弾でした!!




 〜2012 12 05


  
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