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□response talk
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response talk

※ほぼ雰囲気。会話文多い。洛山対秀徳戦ネタバレ。


「僕はお前を凄いと思うよ、真太郎」


 赤司はそう言ってパチリと歩兵を動かした。


 洛山対秀徳戦後、彼は何を思ったか緑間を呼び出し、帝光中学バスケ部レギュラー部室に誘ったのだった。ほんの一年前までいたのに懐かしいだろう、と微笑む赤司に緑間は溜息一つで応じる。その連れない態度にすら笑みを絶やさないままで、赤司はパイプ椅子に腰掛けた。

 因みに何故OBである所の彼が未だに我が物顔でその場に出入りできているのか緑間は知らない。知りたいとも思わないが。


「それは」


 と、緑間もまた歩兵を一つ、動かした。


「お前にとって想定内の期待であり、絶対的立場から見下ろした上での賞賛だろう、赤司。そんな言葉なら、俺は要らん」

「相変わらず自分に厳しいな。まあ、それも真太郎らしい、と言えばそれまでか」


 赤と黄の美しい瞳に喜色を浮かばせて赤司は、変わらないな、とぽつりと呟いた。


「変わっていないのはお前のほうだろう、赤司」

「ん、どうして?」

「お前はまだ、負けた事が無い」

「そうだね」

「俺は、高校に行ってから負け続きだ。碌な試合結果が無いのだよ」

「そんなことはないだろう。実際、四強までは居残った」

「そんなことではないのだよ。……黒子にも、お前にも、勝ってなどいないのだから」

「……なるほど」


 赤司は指を滑らせるように飛車を動かした。緑間が眉をひそめる。


「訂正しよう、真太郎。……というか、元から変わってない、なんて思いもしていないんだけどね」

「ああ」

「お前は変わったよ。僕の庇護下にいたときとはまるで別人だ。義務をこなすように試合をした――勝てばそれでよかったあの頃と――動きも、恐らく心も、全く変わってしまったのだろうね。それが悪い事とは僕は全然思わないけれど」

「俺も、そう思うよ、赤司」


 その深い肯定に、赤司は満足そうに頷いた。


「楽しい楽しくないでバスケはやってなかった。勝利こそ真理で、それ以外は意味すらないと思っていた。……これは、お前譲りの考えかもな」

「そうだね」

「が、少し変わった」

「ふうん?」

「最近、練習する事が、少し、楽しくなってきたのだよ」

「……これはまた。涼太みたいなことを」

「あいつと一緒にするな。あんな誰にでもすぐ尻尾を振ってボールだけ追い掛け回すような奴と一緒にされるのは心外なのだよ」

「それも随分な評価だと思うけどね」

「高尾にな」

「うん」

「たまに俺が笑っている、と言われたんだ」

「へえ?」

「シュートが入ったとき、試合に勝ったとき、俺はどうやら微かに微笑んでいる、らしい」

「今までの真太郎には無かった変化だね。流石、よく見ているじゃないか彼」

「別にアイツは大したことじゃないのだよ。付け上がるから褒めるな」

「手厳しいな」

「アイツにはこれくらいでいいのだよ。……つまり、俺は今、勝つ事以上に精神的な、趣味的な、そういうバスケをしようとしているという、ことなのだろう」

「構わないと思うけど。バスケをやる理由なんて人様々だろう。その日その時に事情があるものだ。心が移り変わったってなんの不思議も無い」


 手が止まってる、と赤司は将棋盤の端をこん、と叩いた。はっとしたように盤上を見て、緑間は歩兵を動かした。


「お前の成長を垣間見たよ、真太郎。今のチームに、真太郎の居場所はきちんと存在するんだね?」

「……ああ」

「なら、良かった」


 その微笑は、我が子の巣立ちを見届ける親鳥のようだった。

 そして、そんな赤司を見て、緑間はこう思う。

 ――ああ、コイツはまだ、帝光中学バスケ部主将、の肩書きを括りつけたままなんだ。


「赤司は」


 ――何のために、バスケをしているのか。

 その言葉は喉の奥に張り付いて、口を次いで出る事はなかった。

 何もかもを見透かしたような赤司の眼が、緑間は恐ろしい。

 天帝の眼

 これ以上赤司にふさわしい名はあるだろうか。


「いや、やっぱりやめておこう」

「なんだ、気になる言い方だな」

「日を改めて聞こうと思っただけだ。……そう、ウインターカップが終わった頃に、でも」

「そう」

「……勝てよ、赤司」

「……意外だな。予想してなかった。涼太やテツヤに言ってやるべきじゃないのか」

「後であいつ等にも言うのだよ。今目の前にいる友人はお前だけだからな、赤司」

「節操無いなあ」

「なんとでも」


 赤司は苦笑すると、膠着状態に陥っていた将棋盤をガタン、と思い切りひっくり返した。ばらばらと床に駒が散乱する。


「今回は引き分けにしておこう、真太郎」

「……どうせ、さっきまでの盤面は覚えてるのだろう。棋譜も」

「勿論」

「じゃあ、大会が終わったら、続きからだな」


 緑間はそう言って微かに口元を釣り上げた。微笑だ。

 赤司はその両目をぱちくりとして、それからなるほど、と呟いた。


「負けないよ」

「赤司」

「涼太だろうとテツヤだろうと。……だって、僕の命令は絶対だからね」

「……ああ」


 いっそのこと気持ちいいくらい変わらない赤司を、緑間はじっと見つめてその脳裏に焼き付けた。

 どちらが相手でも。きっと赤司は、その試合で何かを得て、何かを失うと思ったから。


「帰ろうか」

「だな」

「途中まで電車、同じだよね。同席してもいいかな」

「別に許可をとるものでもないだろう。構わないのだよ」


 将棋セットを片手に部室を出て行く颯爽とした背中に、緑間は小さく呟いた。


「……信じている」





▼change the world








リクエスト・アンケート「緑間と赤司の対話」でした。

チームメイトや自分に直接訴えかけてくる黒子たちのおかげで少しずつ変わりつつある緑間。
対して、絶対的君主であり続けるが故に一切の変化を許さない赤司。
この二人の対話は書いてて凄く悩みました。赤司も緑間も今じゃ普通に「友人」として会話できるような軽い間柄じゃない気がしたので。そのくせ打算的な信頼だけはマントル並に深いと思うのですよ。

そんなわけで。
お持ち帰り自由です。コピペでもURLでもどうぞ。コメントもらえたら嬉しいです。

ありがとうございました。



2012 12 04 奏

 

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