CP連載

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「俺の名前は津軽。サイケ、お前が一人にならないように来たんだ。

 ……静雄が言ってた、ありがとうって」

「なに、ソレ。……俺は未来から来たのに。消えなきゃいけないのに」

「お前に救ってもらったから、お礼だって言ってた。後、勝手に決め付けて消えるなって」

「……」

「よろしく、サイケ」




 









 滑り落ちた手のひらを、冷えていく体温を、知った。

 それは紛れもなく臨也であり、弱弱しい呼吸が止まる瞬間。


「……あ、」

「っ……笑って、シズちゃん」


 涙を禁じえなかった俺に微笑みかけたのは、臨也であり。

 くしゃくしゃになって笑いかければ、いつものように人を馬鹿にしたような笑みを返して。


「あはは……変な顔………。ありがとう」


 それが、最期の言葉だった。


「臨也、臨也っ………!!」


 力が抜ける掌を握りしめる。だけど、滑らかな臨也の手のひらは俺の手を易々と通り抜けて。


「……御臨終です」


 機械的な口調の医師の声が遠く。

 
「イザ兄……っ」

「………兄……否死」


 ぼろぼろと涙を零すクルリとマイルの声を聞き。


『「俺」を、救ってくれてありがとう。オレは静雄を救えたかな。

 苦しいよね、つらいよね。だけど、後悔はしてないよね?

 オレは君の助けになれたかな。バイバイ静雄。君は俺の生まれる未来を作らないだろうけど。

 俺はもう消えるだろうけど。君はもう道を間違えちゃダメだよ?

 ……さよなら』


 「臨也」の言葉を、聞いた気がした。


「馬鹿だろ、お前ら……揃いも揃って」


 グイ、と涙を拭い去り、息の無い臨也の唇にそっと口づけた。


「礼を言うのは俺のほうだろ、臨也」









「静雄は後悔してない。

 臨也の代わりを作ろうとしたわけでもない。

 ただ、お前に救われたから幸せになって欲しいって、そう言って、俺を作った。

 ……本当に、楽しそうに笑うんだ。

 同じ顔なのに、俺はちっともわからない」


 津軽はそう首をかしげた。

 オレはにこりと微笑みかけ、津軽の隣に座る。


「いずれ、わかるよ。

 ……津軽もきっとオレと同じだから!!」

「なんだそれ。

 ……静雄から伝言。

 一度目の奇跡はお前が俺のもとに来てくれたこと。

 二度目の奇跡は臨也と一緒に過ごした時間。

 三度目は、お前が救ってくれたすべて。お前のくれた真心全部。

 だから、四度目はいらない。お前は、お前の幸せを、奇跡を、掴みとれって。

 ……え、あ、泣くな、泣かなくていい。

 ……どうしていいのかわからないんだ」


 ぽろぽろと零れ落ちた涙。

 津軽にしがみつく。

 戸惑っていた彼も、溜息をついて、背をそっとなでてくれた。


「ありがとうっ……津軽」

「……ああ」


 全部全部報われた。

 これから先、静雄はきっと臨也の死を乗り越えて生きていく。

 オレはそれを遥か遠くで感じられたらそれでいい。

 傍に津軽がいてくれるなら、もっといい。


「オレは、幸せだ」

「……そうか」





鐘の音。

木魚の音。

線香の匂い。


火葬場。




「ありがとうな、臨也」














fin.


 

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