CP連載
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酷く気分がいい。
いよいよ俺も終わりらしい。
手を伸ばしたら、臨也は迎えに来てくれるのだろうか、それとも押し返されてしまうのか。
気になるのは、『サイケ』の事だった。
一瞬の邂逅が『サイケ』のココロだったのか『臨也』のココロだったのか、今となっては判らない。
それでも、確かなものがある。
一度目のキセキは、『お前』が生まれたこと。
苦心の末に生み出しての第一声に絶望した、サイケ。
シズオ、と平坦に呼ぶ声が辛くて、いっそ壊してしまおうと思ったこともあったけど。
それでもそうできずにいたのは、少なからずお前に救われていたから。
思い出を話して聞かせるたびに、ほんの少しだけ表情が明るくて。
俺を気遣って新羅の元へ走ったあの日、確かにお前は臨也であり、サイケでもあったよな。
二度目のキセキはアイツと、臨也と過ごせた時間。
臨也との思い出に良い物なんて結局無いに等しかったけど。
駆けずり回って喧嘩した日々は今でも鮮やかに思い出せるし、決して忘れたくない、忘れない。
気づいたのは手遅れになってからだったけれど、
吐血しながら、胸を押さえながら、それでも俺をからかう為に池袋に姿を現したお前。
標識を持つ俺の手は、確かに震えていたよ。
三度目はまだ無い。
これ以上望むのは贅沢だと知った上で、一つだけ望むキセキがあるんだ。
最期の願い、されど、叶うはずの無い願い。
「っ……サイケ…、臨也………」
言葉にするのは酷く躊躇われた。
細くなっていく脈拍がそれとなしに判る。
ああ、嫌だ。
後悔だらけだ。全部全部、やり直したいけど、全部はきっと無理に決まってる。
「……シズちゃん、オレ、きくよ」
いつものように平坦な声が聞こえる。
どうして此処に居るんだとか、新羅はどうしたとか、言いたい事はいっぱいあったけどそれより何より安心してしまう自分が居ることに気づいて、辛くて悲しくてたまらなかったはずなのに思わず笑みを漏らした。
「アイツの最期に、立ち会いたかった」
ああ駄目だ、やっぱりもう一つだけ。
だけどもう言葉は出ない。
そっと俺の手を握る気配があった。
僅かにサイケの瞳が潤んで、悲しんでいるように見えた。
そんなはず、ないのに。
「うん、うん、わかった」
そう、そんなはずないのに、
サイケの瞳から零れ落ちたのは、紛れも泣く涙。
もう大丈夫。
根拠もなくそう思った。
我侭がもう一つだけ通じるなら、
どうか、サイケが幸せであれ。
俺は臨也に、サイケに、出会えて幸せだったんだ。
こうしてみっともなく後悔ばかり引きずって生きてきたけれど、それだけは断言できる。
あの日、墓前で呟いた。
―――「 」
今しかない、告げることができるのは、本当にもう、今しか。
「愛してた」
サイケの表情はもう霞んでよく見えなかったけれど、
俺には笑ってくれているように感じたんだ。
意識が混濁する、闇が迫ってくる。
さよなら、なんて言いたくないから、
キセキを、起こして。
to be continued...