CP連載
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シズちゃんを助けて、と、そう言って駆け込んできたのがサイケなのか臨也なのか私には判らない。
ただ、まさしく人形だった『彼』の表情が明らかに切迫していること、それだけはわかった。
尋常じゃない物言いに不吉なものを感じて、静雄の元へ急ぐ。
「静…………っ…?!!」
ひゅ、と荒い息遣い、その脇には明らかな吐血の後。
寄り添う『彼』に続いて素早く医療器具を取り出した。
「新羅っ、シズちゃんを助けてっ、ねぇっ………!!
『俺』と同じにしないで、『オレ』を置いていかせないでっ……」
「大丈夫だよ。『君』も知ってるだろう? こいつは誰よりも強いよ、だから」
「………あれ、このきもち、なに………?」
「……耐え切れなかったの、臨也。ココロのない人形に戻るの……?」
ひどく嫌な感じがした。
現実を放棄した『彼』を見つめる自分が遠い。
自分の言葉が空回りしているような、中身の無いような。
そしてそれはそのまま現実に。
『君はアイツと同じみたい……』
『死ぬよ? このままじゃ……』
そう告げた時の静雄の表情を多分私は一生忘れないだろう。
大きく目を見開いて、それから僅かに嘲笑した。
無表情に戻ってしまったサイケを見つめる瞳が僅かに潤んで。
「悪いな、臨也」
涙が一滴、零れて床を濡らす。
感情を伴わない声は、何よりも残酷な言葉を発するのだった。
「貴方ハ何故泣クノ?」
それからの静雄は人が変わってしまった様だった。
一日中暇さえあればパソコンの画面に向かって何かを呟き、忙しなくキーボードを叩いていた。
あんなにサイケに話しかけていたのに、今は言葉さえない。
入院すべきだよ、と勧めても頑なに拒否し続けて、そしてある日。
「シズオがね、あとはシンラにまかせろって、これよこしてきたの」
「静雄が……?」
そう言って手紙を差し出すサイケの手が微かに震えていた。
不思議に思いながら受け取った手紙の内容に、私はマンションを飛び出した。
―――悪いな、新羅。あと、頼むわ。
俺は良くわからないけどまだ、17% だけ。
その先は、サイケの望む様に……
そう書かれた便箋一枚と、ハードウェア。
冗談じゃない、サイケを、臨也を残して今度は君が死ぬつもり?
「あの、シンラ………?」
「君も来て、早くっ!!」
「あ、うん」
間の抜けたような声が追随して、走るのなんて苦手だけどこれ以上ないくらい全速力で走った。
君も臨也も、勝手なんだよ。
私だって心配位するんだ、私だって君たちの友人だと思って接してきたさ。
なのに、なのに、いつも君達は私に何も告げずに去って逝く………!!
「静雄っ!!!」
「……ば…っかやろ……。
何で……来るんだよ、新羅。………最期なんて見せたくないのに……っ」
弱弱しい、今にも消えてしまいそうな声色で、静雄はそう言った。
そのくせして、いつもの通り椅子に腰掛けて気丈に振舞って。
「そんなの、君の勝手だよ、静雄。
私は二度と君たちに置いてきぼりにはされたくない、そしてそれは『彼』だって」
「……出て行ってくれ……」
「静雄、」
「頼むから」
拒絶。
せめて『彼』だけでも、と告げた私をやっぱり一蹴して、そうして。
最後まで静雄は一人きりだった。
一人きりだと思ってた。
to be continued...