CP連載
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遠い過去。
憶えてる。
高校時代、顔を合わせれば喧嘩ばかりしてた頃、面倒で狸寝入りをした日。
あの日、お前は俺に小さな口づけをした。
忘れるわけがない、己の感情を認めるのが怖くてお前を蔑ろにしたあの日。
「………………っ、」
今更どうしようもない後悔ばかりが募って苦しい。
あの時追いかけていたら何か変わっていたのだろうか。
考える時間だけはあるけれど、結果は何一つ変わらない。
悪かった、と、そう告げる相手すらもうこの世には居ない。
結局たったの一度も、何一つ、俺はあいつに伝えないままだったんだ。
俺の気持ちも、お前の思いも、全部全部喉に突っかかったままだった。
馬鹿みたいに資料を読み漁ったところで何も変わりはしなかったのに。
現実から目を背けたって時の流れは止まりはしないのに。
そうやって得たちっぽけな結末はどうだ?
お前の最後に立ち会うことも無く、お前が居ない世界を認められずにいる俺が居るだけじゃあないか。
お前を作る、なんて奮起したところで不可能なことはわかってたはずなのに。
「シズオ、どうしたの?」
「あぁ、どうってことねえよ。サイケ、あのな」
人工知能を搭載したサイケにはココロが無い。
心配する声、であるはずの言葉でさえ冷え冷えとしたままだ。
ひどく、胸が痛む。
マウスから手を離して、サイケに向き直った。
目の高さをあわせて、話しかける。
「………ごめんな」
「……シズオ……?」
「……………臨也……っ、俺は……」
むせ返るような苦しい思いを封じ込めて、少しずつ思い出を語る。
届けとばかりにサイケを抱きしめる。
始めは無表情に俺を見つめ返すばかりだったサイケが、変化しているように見えた。
それは、情報として俺と臨也の記憶をインプットしたからなのか、
それとも、まさしくココロがインストールされているからなのか。
そのとき、
「ねぇ、………シズちゃん……」
その名を、呼ばれた。
「……臨也……?」
「どう、だろう。オレなのかな、それともいまのオレは、『俺』なのかなぁ……」
曖昧な声はわずかに感情を帯びていて、サイケのようで臨也のようで。
だけど静かに回される機械仕掛けの腕は温かく感じて、柄にも無く涙腺が潤んだ。
「あはは、らしくないなぁ、泣かないでよ。
どうすればいいのか分からないじゃない」
「ば………っ、るっせーな、言うなノミ蟲が」
「うん、ごめんね。……………ごめんね」
まさにキセキだった。
最早俺は目の前にいる相手が臨也でもサイケでも構わなかったのだ。
ごめんね、と繰り返して呟く「彼」の瞳で、俺は臨也に癌なのだと告げられた日を思い出した。
『俺は……皆のように自由にはなれない』
そう言った臨也が泣いていた。
それを見て見ぬ振りをしたのは、俺だ。
―――ああ、あの時に、戻れたなら。
ぶん殴ってやりたいのは、間に合わなかった俺。
いま後悔することは悔しくて切なくて、目の前の『臨也』は本当は居てはいけない存在だった。
ごめんね、と悲しそうに笑う『臨也』だった。
「臨也、俺は、」
ごぼり、と何かが湧き上がって体中から力が抜けた。
駄目、まだだよ、なあ。
まだ、俺は何も言ってないのに。
振り絞って挙げた手は、虚しく空を切って、
―――『臨也』が何か言ってる。
そう感じて、そうして俺は意識を闇に閉ざした。
ハッピーエンドなんて、きっと来ない。
to be continued...