CP連載

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 バラ、バラ、ガシャン

 数だけの意味のない失敗作を、量産品を、纏めて廃棄した。

 様々な機器が散乱する部屋のその先、治療部屋にも似たその部屋にそれは静かに、だけど確かに息づいていた。


――臨也、ついにここまで


 小さな嘆息を洩らして、それからパソコン画面を睨み付けた。

 0と1の羅列。それが目の前に全てだった。

 祈りをこめてキーを押す。

 『それ』に繋がる日本の白線が桃色に染まって、それからゆっくりとそれは動き出した。

 開いた瞳は、桃色を閉じ込めたような、少しだけ光の差す、赤。


「・・・・・・あ・・・れ??」

 
 覚醒したそれは辺りをきょろきょろと見渡し、それから俺の姿を認めると、にこり、と笑みを浮かべるのだった。

 機械仕掛けの、空っぽな笑みを。


「キミは、誰?」


+ + +


「新羅、アンドロイドってどう作るのか知ってるか?」

「は?」

【え?】


 墓参りの帰り道、ずぶぬれの服にも拘らず新羅の家に直行した。

 突然押しかけたのは悪いと思うものの、俺の脳内はある一点にのみしか働いていなかったから。

 呆気にとられた新羅の声と、疑念が打ち出されたPDA。

 流石に前置きもなしに端的過ぎたような気もしなくもなかった。


「だから、アンドロイドの作り方教えろっつってんだよ」


 説明の苦手な俺は、さることながらその作業を廃棄したのだが。


【アンドロイドって・・・・・・あれだろ?人間型ロボット。そんなの作ってどうするつも・・・・・・?!】

「静雄、もしかして君はアイツを作り直すつもりなの? 無理だよ、人とロボットは違うんだから」


 新羅は飲みかけのコーヒーカップを卓上に置いて、静かにそう諭した。


「そんなのは君が一番分かってるでしょ?」

【悪い事は言わん、やめておけ。お前が辛くなるだけだぞ?】

「・・・・・・・・・っ、けどなぁっ!!」


 ガン、と拳をテーブルにたたきつけた。当然、突き抜けて木製のテーブルは真っ二つになる。


「あ、悪いなセルティ、弁償する」

【気にするな】

「私には?!」


 テーブルだったものと、自分の拳を交互に見つめた。

 破壊することしか知らないこの腕が、創造する権利を持つのか、甚だ疑問だった。

 嘲笑、それでも決意は揺らがず。


「なぁ新羅、本気、なんだよ」

「わかってるよ、だからこそ反対したんだからね。僕は君を俺並みに心配しているのさ」

【紛らわしいから一人称を統一してくれ】

「・・・・・・心配すんな。ロボットと人を一緒くたに見ちまうほど、俺は馬鹿じゃねぇよ」


 無言の膠着が続く。

 空気を破ったのは、新羅の大きな溜息だった。


「私は医者だから、アンドロイドの作り方は知らないよ」

「てめっ、

「でも、父さんなら知ってると思うから」

【森厳?】

「うん、仮にも父さんもネブラの研究員だし、そのくらいは、ね」


 メモ紙にさらさらとネブラの住所を書くと、新羅は仏頂面でその髪を俺に渡した。


「私は何も関与しないからな」

「・・・・・・ありがとな、新羅」

【何かあったら連絡しろ、必ずだ!!】

「あぁ、悪いな、セルティ」


 良い友達をもったものだと我ながら感心した。

 腐れ縁の闇医者に、池袋をにぎわす都市伝説ではあったけど。


「じゃあ、また」

「くれぐれも無茶だけはするなよ?」

【いつでも来い、歓迎する】


 意を決して外に出た。雨はもう上がっていた。


「待ってろ」


 人知れずそう呟いた。

 閉じた傘の水分を飛ばして、うっすら見えた虹を見つめる。


 執着にも似たこの思いが、恋情であったことを信じて。


+ + +


 それから幾年の時を経て、此処まで来た。

 破壊しか知らなかったこの手が、何かを生み出すなんて滑稽な話だったが、それも時を重ねていくごとに消えていった。


「キミは、誰?」


 その声は確かに記憶にある臨也のもので、だけど、決定的な違いがあった。


 感情の欠落。


 かみ合わない表情筋は却って俺を苦しめた。

 まだ、まだ出来上がらないのか、


「臨也っ・・・・・・」

「イザヤ?」


 語尾だけの不思議そうな声。

 はっとして、目の前の『彼』を見る。


「俺は、平和島静雄」

「シズオ?うん、おぼえた」

「おまえは、サイケだ。いいな?」

「おれはサイケね、りょうかいりょうかい」


 何も覚えていなくてココロのプログラミングも不完全で。

 だけど、サイケの赤い瞳はアイツにそっくりで。


「大丈夫、俺がお前を完成させるから」



 それをエゴだと知ってなお。



To be continued...

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