CP連載

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 思い出話は好きじゃなかった。

 特に高校時代なんて思い出したくもない。

 だけど、墓前に手を合わせるこの過程で何も思い出さないのは、流石に無理、と言うものだ。


 臨也の死から、二ヶ月が経っていた。

 慌しく過ぎていく、通夜に告別式、葬式、そして四十五日。

 一人疎外感は否めなくて、浮き彫りにされていく感覚は拭えなくて。


「だってよお、突然すぎると思わねぇかあ?臨也クンよぉ」


 ザァザァと降り続く雨。

 傘は・・・・・・何つーかもう諦めた。濡れて帰ろうと思う。(そう言えば今日幽、家に来るっつってたっけ)(・・・怒られんな)


「そういやあ、あの日もこんな感じの大雨だったな」


+ + +


 外は大雨だった。糞、朝はあんなに晴れてたくせに、生意気な。

 昇降口で鞄を漁ると、奥から折り畳み傘が若干よれた姿で出てきた。使えるのか不安になった。

 まあどちらにしろ外は大雨。その上暴風。傘はどの程度気晴らしになるのか、甚だ疑問、ではある。


「まあ、ねぇよりはマシだろ」

 
 広げた真っ黒い傘は意外と大きい。

 外へ出ようと一歩踏み出した時、後ろから聞き慣れすぎた声が聞こえた。


「シーズちゃんっ!!」

「てっめぇ臨也ぁっ!!俺には平和島静雄って名前があるって言って・・・・・・あ、どうしたんだ?」


 声の主は確かに臨也なのだが、いつもの糞気持ち悪い笑みが浮かんでいない。

 寧ろ、爽やかな純情少年(ってなんだ)的笑みが前面に押し出されていた。

 戸惑いながらも、話を聞こうとすると、その笑みをさらに深くして、こう言うのだった。


「傘、入れてよ」

「・・・・・・・・・は?」

「だから、俺、傘忘れたんだよね。入れてよ、いいでしょ?減るもんじゃないしさ?」

 
 人差し指を立てて笑った臨也に感化されたのか否か、俺は一言、好きにしろ、と呟いた。


「シズちゃんおっとこまえー。ありがとねっ」

「礼を言うな気持ち悪ぃ。らしくねえんだよ」

「あっれぇ?褒めたつもりだったんだけどなあ」

「嬉しくねえ」


 雨の中、野郎二人で傘一つ。

 だけど、たまにはそれも悪かねぇな、なんて安堵した。

 駅前に付く頃には雨はすっかり上がってて、遠くに虹が浮かんでいた。


「都会って、虹見えるんだねぇ」

「ビルとかでよく遮られねぇよな」

「そいえばさ、虹の根元には宝がある、とかいう話があったよね。知ってる?」

「あー、そうだっけ?死体だと思ってた」

「それは桜の根元だろ」

 
 歩道橋の上で、虹を見上げながらそう話した。

 ふと見た臨也の横顔が、切なげで、それでいて綺麗だと、そう思った。

 結局その後臨也を家まで送り届けて、何やら礼だとか何とかでカロリーメイトをやたらいっぱいもらって家に帰った。

 少しだけ上がりこんだあいつの家は広くて、で、何が気になったって、冷蔵庫のコードが切れていたこと。

 食生活、マジでカロリーメイトで補ってんじゃないかと軽く心配になった。


 ・・・・・・なんで心配なんかしてんだか。


「あー……」


 時間止まれぇ〜

 
 と戯言を吐いた。

 良くわからないこのもやもやとした感情か、明日になって払拭されるのが何故だか怖くて。


 けど次の日、完全復活通常運転敵意丸出しな臨也に、そんな感情は見事に消し飛んだのだが。


+ + +


「あれだけだな、高校時代でお前に関するプラスな思い出」


 立ち上がった。

 線香の煙が微かに揺らめいた。


「お前の気持ちなんて、分かってたよ」


 臆病だったのは、俺のほうだ。

 自分の気持ちから目を逸らして、逃げ続けて。

 後悔するのは、いつだって手遅れだと気づいてからで。


「          」


 口パクでそう言った。

 墓前で言うべきではないと思ったし、声を出す資格がない気がしたから。


「だからな、作るんだ、お前を
 見た目も中身も記憶も全部全部、お前と同じにするから、だから、」


 そうしたら、今度こそちゃんと伝えるから。


 地面に置いたままだった傘をもう一度持ち直した。

 ずぶぬれになった俺にもう意味はなかったけど、


 これは、あの時の傘だから。


「これで此処にくんのも最後だ、臨也」


 じゃあな、と呟く。

 墓から離れ歩く足取りは、ほんの少しだけ、軽くなった。




To be continued... 

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