CP連載

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「シズちゃん、俺さ、・・・・・・・・・癌なんだって」


 ふざけるな、と殴り飛ばしたくなるくらいか細い声で、臨也はそう呟いた。

 だだっ広い個室の病室に微かに反響して、信じられないけれど、確かにそう言ったのだ、と理解してしまった。


「だってお前、ついこの間まで、」



 池袋にのこのこ遊びに来てたじゃねぇか、病気なんて、何馬鹿な事言ってんだよ。


 そう言おうとして、だけどそれは自己欺瞞であることに気づいて言葉を飲み込んだ。

 そうか、と返せば、臨也は笑みを貼り付けて、言葉を発した。


「ははっ、何て顔してるのさ。
 シズちゃんだって嬉しいでしょ?大っ嫌いな俺が床に伏して、今にも死にそう、なんてさ」

「・・・・・・お前は死んでも死なねぇよ」


 泣きたくなる衝動を押さえつけて、吐き捨てた。

 ぱちり、と瞬き。それから、いつもの笑みになって。


「そうだね」


 唯一言、それだけだった。


「臨也、お前マジで・・・」


 死ぬのか、なんて言えなかった。

 言える筈がなかった、笑みはとっくに消え失せてたから。


「シズちゃん、あのさ、」

 
 俯いてから、顔を上げて。

 何かを言いかけていた唇は言葉を閉ざして、不意に伸ばした手は病室の扉に向いた。

 カツ、とナイフが扉に当たって落ちた。

 刺さらない、なんて。


「臨、」
「早く帰ってくれない?後、つっかえてるんだよね」

 
 俺ってば、知り合いもお友達も多いからさ〜、シズちゃんと違って、と俺のほうを見て言った。


 いつもなら、そこでもうブチ切れて殴りつけたり投げたりするけれど、流石に憚られて。

 だけどしゃくだったから、臨也の頭を軽く叩いた。


「調子乗んな」
「あは、痛いよシズちゃん」
「ま、暇な時にでもまた見舞いに来てやるよ」

 
 席を立った。
 
 ひらっ と手を振って病室を出る。

 扉の先には、クルリとマイルが鎮座していた。


「あら、静雄さん、いらしてたの」
「まぁな、一応」
「・・・・・・また来てやってくださいね、あぁ見えて、イザ兄、心細いはずだから」
「願(お願いします)」
「あぁ」
「ではまた、失礼します」


 入れ替わりに病室に入っていった二人を見届けてから、歩き出した。

 見上げた空は鉛色で、思わず チ、と舌を打つ。


 あぁくそくらえ


 人が死ぬのは嫌いなんだよ、と呟いた。

 俺に限って言えた事じゃないな、とふと思った。




 臨也が死んだのは、死んだと聞いたのは、それから三日後のことだった。



「・・・・・・何そんなトコで寝てるんだ、臨也クンよぉ」



 届かないことを知って、会えないと知って、こんなに空虚になることなんて、知らなかった。


 一度くらい、素直になってやれば、良かったんだろうか。




To be continued...

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