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□嘘吐きの決まり事
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嘘吐きの決まり事
誰が決めたわけでなければ何時から試行されるようになったかも判らない、幾つかの俺達のルールがある。
そのルールはいつの間にか絶対遵守の誓約になり、それは酷く俺たちを縛り付けた。
その1、池袋の街であったらただちに殺し合い級の喧嘩をすること。
その2、常に全力で憎しみあうこと。
その3、
「シズちゃんが好きなモノは俺は大嫌い。……そういうルールだったよね?」
臨也はそう呟くと表通りに歩き出した。
交通量はいつも通り多い。
その歩道と車道の際に立って、ふい、と振り向いた。
「だから、俺は要らないよね」
怖気がした。
聞き返す暇もなく臨也は軽い足取りで車道に、
飛 び 出 し た 。
「……は」
見計らったのか偶然なのかは知らない。
丁度飛び出した先には大型トラックが迫っていて、臨也は当然のように、牽かれた。
慌ててトラックの運転手が降りてくる。
真っ青な顔をして、俺じゃないこいつが飛び出してきたんだ俺は悪くない、そう弁明しているのが遠くに見えた。
わかってるよあんたじゃねぇな。悪いのは誰なんだろうな。
ぼそりと呟いて臨也に向き直る。
だらんと垂れた腕は俺がずっとずっと望んでいた姿の筈だったのに、どうにも腑に落ちなくて焦った。
なんだよ。なんだよこれ。
俺の好きなモノはテメェだって言いてえのかよ。
ふざけんな。テメェなんざ大嫌いだ。だから、
「死なせるわけにはいかねぇだろ……!!」
モシモシキュウキュウシャヲオネガイシマス。
雑踏の中誰かがやっと電話する。
そんなんじゃ、こいつはきっと間に合わない。
新羅の家はすぐ其処だった。
「そこ、開けろよ」
抱きかかえて新羅の家に走る。
腹部からの出血に指先をあてた。
「なんで俺生きてんの」
「やぁ、目が覚めたかい」
「……新羅」
コーヒーカップを手に新羅はベッドに腰掛けた。
「驚いたよ、静雄が君のことを助けろって飛び込んで来たんだ。
内臓を損傷仕掛けてたけど、静雄が出血箇所を押さえてくれたから間に合った。
……あのさぁ、臨也」
俺を見る新羅の目は怒っているようにも呆れているようにも見える。
溜息をついてごめんと呟くと、今度こそ呆れたと口に出してやれやれと首を振った。
「こんな自殺まがいの事してまで静雄の気持ちを確かめる必要、ないだろ」
「そういうルールだからね、しょうがないんだよ。
……シズちゃんは?」
「さっきまで君につきっきりだったよ。今は隣の部屋で寝てる。無理矢理休ませたからね」
「ふーん」
立ち上がって新羅の制止も気にせず洗っておいてくれたらしいコートを取る。
「まだ此処にいた方がいい、」
「俺暇じゃないからさー、ありがとね」
隣の部屋をちらりと覗く。
静かな寝息が聞こえた。
「あっ、そうだ。シズちゃんのこと毒殺でもしといてくれたら恩に着るよ」
「はいはい」
外に出る。
深呼吸。
俺たちの間に恋情があるなら。それはきっと、
「何よりも歪な形だろうねぇ」
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