no title 3

□狂う
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狂う


 罪歌かと思った。

 傷つけることで愛を語るある意味で至上の存在に、彼女はそれほどまでに似ていた。

 だけど聡明で美しい彼女の瞳は真っ赤に染まるでもなく黄金に輝き、寸分の濁りすらなく、其処で初めて俺は、


 悪寒


 を感じるのであった。

 彼女は、普通に、正常に、壊れていて。


「まぁた約束破ったんだね、シズちゃん」
「私以外に殺意を抱かないでって、言ったじゃない」


 そう言って、彼女は自ら、衣服を脱いでいく。

 やがて一糸纏わぬ姿になって、だがしかし平然としたまま、彼女は俺に笑顔で接するのだった。


「好きだよ」


 ヌメリ、と彼女の舌が俺の口内を荒らしていく。

 それが、合図だった。


「ねぇ、シズちゃん。




 抱いて



 ね        ?  」


「・・・・・・・・・・・・・・・あぁ」



 壊れていても好きなことには変わりなくて、だからこれは惚れた弱みで。

 喉を伝って体内へ滑り落ちていった液体は、きっと紛れもなく彼女の唾液だったのだろう。



 結局のところそれだけなのだ。

 俺と彼女を結びつけたのが、歪な恋情で、それが俺達にはわからなかっただけだった。

 愛することの出来ない俺を愛した彼女を、俺は愛し返しただけで。



「シズちゃ・・・・・・は、私の事・・・・・・好き・・・?」


 情事も終わりに近づいてきた時、彼女はふと、そう言い出した。

 喘ぎながら、それでも切れ切れに、必死に。


「お前が死んだら、発狂する程度には」

「そっか。・・・・・・後、追ってくれないの??」

「飛び降りたって轢かれたって死にそうに無いからな」

「そだね」


 彼女は微笑んで、それから小さな声で来て、と呟いた。

 快楽に流されながら、彼女はいつの間にか、ゆっくりと瞳を閉じていくのだった。

 黄金が、ふと影を帯びた。


「シズちゃんには、毒も効かないのかな
 ・・・・・・・・・っはは、馬鹿だ、私」

「・・・・・・おい?」


 脈が細くなっていくのが分かる。

 背筋を冷たいものが走って、喉が、ヒュ、と鳴る音を聞いた。


「狂っててゴメンね。
 心中しようとしたの、だけど、失敗しちゃったな。
 バイバイ、シズちゃん、愛してる。

 次にあったときは、純粋に愛するかr・・・・・・・・・



 それ以上は言葉もなく、ただ冷たくなっていく彼女の体温を、一枚の布の隔たりもなく感じていた。

 

「何で俺は、」


 死ねなかったんだろうな。


 確かに愛して、それが狂っていたことを立証して、俺はそっと彼女の死を悼んだのだ。




情死していけたら

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