no title 3
□シセンノサキ
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シセンノサキ
記憶に留められないことほど悔しいことはないし悲しいこともないし、ましてや自分が意識している相手なら尚更だ。
高校に入って緑間真太郎の姿を見つけたとき、そして緑間が俺をちっとも覚えちゃいないと思い知ったとき、俺はそう思い知った。
だからせめて練習量だけでも負けたくなくて、張り合うように居残り練習に励んだ。
その頃からだ、悔しさにも似た憧れは捨て去ったのは。
「天才ってのはその資質にかまけて大した努力もないでラスボス気取りしてるような奴だと思ってたんだよね、俺」
ある日の居残り練習後、心身ともに疲れ果てた俺は、ついそんな本音を口にした。
緑間はきっちり1000本のシュートを撃ち終えてから、俺に振り返って隣のベンチに腰掛ける。
「……そういう奴も居ることは、事実なのだよ。覚えがあるからな」
「そういや緑間ってあんまし中学の話しねーよな。良かったら聞かせてよ、キセキの世代のこと」
「……大した面白い話にはならないぞ」
「だーいじょーぶ。キセキなんて存在チート、面白くないはずがないから」
緑間は大きく溜息をつくと、ベンチの脇に置いていた二本のボトルとラッキーアイテムのひよこのぬいぐるみを手に取った。
ボトルは一本、俺に投げ渡してくる。
「高尾はスポドリ派だったな」
「……よく御存知で」
「この程度、見ていれば分かるのだよ。……で、中学の話、だったか」
緑間はふっと目を眇めて、天井を仰いだ。先輩方がボールをつく音が響いている。
「勝てば官軍、負ければ賊軍。その言葉を地で行くような部活だったのだよ。チームメイトは絶対王者と子供と俺様と真似っこ、それから影薄いの、だったな」
「うーわー、濃いなー……。ってあれ? 影薄いの?」
「……アイツのことは割愛だ。あまり大っぴらに話したい話じゃないからな」
「そーじゃなくてさ。その薄いのってあれだろ? 色素薄くてパス上手くて他からっきしの奴。マッチアップこそし損ねたけど、覚えてるぜ?」
中学の時、見たことあるな。そう言うと、緑間は驚いたように目を見開き、口を閉ざした。
スキール音。
ネットをかいくぐるボールの音。
暫くの間があって、緑間はふと立ち上がった。
「昔は昔、今は今だ。機会があれば話す。
もう少し練習するのだよ。お前はどうする?」
ばつが悪そうなその声の調子は、いかにも、お前もつき合え、と、そう言っているように聞こえて。
ふ、と自分の口角が上がるのを俺は感じ取ったのだった。
「俺もやるに決まってんだろ。負けねーぜ、真ちゃん」
「……その馴れ馴れしい呼び名はやめるのだよ」
楽しい楽しくないでバスケはやっていない。勝利こそ真理だし負けて嬉しい奴など、どこの世界にいるというのか。
少なくとも中学三年間はその理念のみでやってきた訳で、高校に行ったとて変わるものでもないと思っていた。
「……ねぇ真ちゃんこれなに?」
「見てわからないのか、馬鹿め。リヤカーなのだよ」
「そりゃわかるけど!! え、なに、ラッキーアイテム!?」
「おは朝占いのアドバイスなのだよ。毎日のリヤカー使用であなたの運勢が補正されること間違い無し!!、だそうだ」
「毎日!?」
その日のおは朝は長年見続けている俺でも首を傾げてしまうようなラッキーアイテムを提示してきた。即ち、リヤカーと自転車。
どう扱ったか迷った挙げ句、最近一緒に登校するようになった高尾にことの顛末を話すと、高尾はやはりあの軽薄そうな笑い声を出したのだった。
「んやー、おは朝も大概だよな。んじゃあれじゃん? リヤカーをチャリの後ろに接続してチャリヤカー、みたいな?」
ちなみにこの提案の間にいったい幾つ噴き出したかは割愛する。
「チャリヤカー漕いで学校登校する男子高校生と、かっ……ぶふっ」
「笑い事じゃないのだよ。お前にも関係があるのだから」
「え、」
「相方がいると尚良し、だからな」
そう言うと高尾はニヤリと笑って俺の肩を叩く。存外親しみが籠もっているようで、困惑した。
「そんじゃしょーがねーわな。たーだしっ! じゃんけんで決めるからな。負けて漕ぐことになっても文句言うなよ?」
「負けるはずがないのだよ、俺は人事を尽くしているのだから」
「へいへい。んじゃ行くぜ、じゃーんけーん」
その日から今まで、俺は一度も自転車を漕いだことがない。
真ちゃんが最も自由に動けるように。真ちゃんが誰よりも輝けるように。
宿敵とも言えた彼と同じチームになってから俺が心掛けているのはその一点のみだ。
「そういう形で、俺は緑間の視界に今度こそ入ってやるって、そう決めてた」
ボールを持たないままシュートモーションに入った真ちゃんを横目で確認して、俺は思いに馳せる。
中学の時、こてんぱんに負けたこと。
悔しくて悔しくて、必死に練習したこと。
それだけの思い入れが、彼には何一つ通じていなかったこと。
そして今。
俺が誰よりも輝かせたい偏屈なエース様へ。
「いっけぇ!!」
真ちゃんの手の中に納まるようにパスを出す。え、と相手選手の絶句を聞いた。
ワンテンポあって、真ちゃんが俺からのボールを撃った。
綺麗な弧を描いて、ボールがネットをかいくぐった。ほんの僅かもネットが揺れることは無い。
真ちゃんは、
キセキの世代じゃない、秀徳高校のエースである緑間真太郎は。
僅かな微笑を浮かべて、俺を見た。
「ナイッシュ、真ちゃん」
小さく呟いて、また走る。
一度っきりじゃ終わらせない。
絶対、絶対、俺が、真ちゃんを、
(あいつに負けは似合わないから。神様、勝利を誰よりも生真面目なアイツにお与えください)
際立たせてやる、から。
▼だってお前は
(今誰よりも大切な仲間だろ?)
180Qが公式同人誌過ぎてびっくりした。
立ち読みで済ませようとか甘すぎた取り合えずコンビニでじたばたして悶えてお隣でやっぱり立ち読みしていたクラスメイトに怪訝な顔されたのはまあうんでもそれすらもどうでもよく思えるチャリヤカー組マジ愛してる。
ちゃんと月曜日に書いたにもかかわらずバックアップ取り損ねて2500字40分の苦労が水の泡になった時は泣きました。
ちなみにこの小説、一日経てだいぶ落ち着いて書きましたよ。やっぱりテンション変だけどね!!
取り合えずおめでとう高尾。お前の努力は報われた。
こうなってくると本当頑張って欲しいです赤司様マジ鬼畜だけど頑張れ、ファイトだ!!!