no title 3

□差し引き零
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差し引き零


「鏡面に反射した光は屈折して鏡には入らないものなんだけど。……君が居るところを見ると、どうやらそうでもないのかな」

「んぁー……。べっつに、行動が被るくらい普通にあるだろ。いちいち目くじら立てんなよな、虚像」

「とんでもない、僕は純粋に驚いているだけなんだよ。

 偶々偶然、思いついて去年のこの日と全く同じおたべを買って同じ道を歩いて同じ時間につけられて同じ時間に君にあった。

 まさかまさか、君が去年の再生をするような手間を取るような奴だとは思わなかったからね。意外なだけ」

「偶々、ねぇ。焼き直ししてたのは俺もお前もお互いあいこってだけじゃねぇの?」


 零崎はそう言って高架下、ちょうど陰になる部分にどかりと腰を下ろした。

 たしたし、と隣の草むらを幾度か叩くので、それに準じて僕も座る。

 そよそよと吹く風はまだ五月の夜の冷たさが刺さって、少し痛い。

 ふるり、と顔を膝の間に埋めて暖を取ると、かはは、と笑って彼は少し僕の傍によった。


「ちっと今日は冷えるな」

「うん」


 去年はバトってそれどこじゃなかったけど。

 そう言う。あー……、と零崎は頬を掻いた。


「殺さなくて良かった」

「切実に」


 バックの中をがさがさと漁る。おたべを取り出して聞いてみると、零崎は目を輝かせて喜んだ。

 箱をひったくるようにとり包装紙を無遠慮に破き、買った本人、つまり僕の許可を待つこともなく、次々と口の中におたべを放り込んでいく。

 あっと言う間におたべは売り切れて、彼は満足気に指先についたにっきを舐めた。


「実は去年から狙ってたんだよな」

「え、僕が殺されかけたの、おたべの所為?」

「……いやいや、まさか」

「何その微妙な間」


 初対面のときはつらつらと続いた会話が今日は一向に繋がる気配を見せない。

 どうしよう。

 考えあぐねていると、ふと口元に残った餡が目に付いた。


「零崎、ついてる」

「え、どこ?」

「ここ」


 頬に触れる指先はてんで違うところ。

 じれったくなって手を伸ばしかけて……引き戻し、体ごと零崎に傾けた。


「ぺろっと」

「ふぎぁっ?!」


 餡を舐めとると、零崎は水を掛けられた猫のように奇声を上げて肩を震わせた。

 ……おお、なんか新鮮。


「な……っにすんだよ変態っ!!!」

「……おたべ、君の所為で食べ損ねたから」

「にしても他にもっとやり方ってもんが……っ!!」


 ぱくぱくと口を開閉させて、言葉にならない言葉を必死で紡ぎだそうとする零崎はなんだかとても可愛らしかった。


「改めて久しぶり、僕の鏡面体」

「……うぁー……」

「何」

「いーたんすっげぇ腹立つ」

「一年前の仕返しくらいさせろ。殺人に関しちゃ僕は君に手も足もでないんだから」

「はぁ?! 殺しかけた仕返しでっ」


 ……あれ、零崎、結構マジで怒ってる?
 

「……君がなんか、可愛らしかったから、つい」

「キモ」

「ごめん」

「……傑作だぜ、嘘だよ嘘。お前流に言うなら戯言。別に本気で嫌だったわけじゃない」

「……うん?」

「鏡のすることに一々腹立てるかっつの」

「……調子乗るよ?」


 傾いた体を更に零崎に寄せる。

 身じろぎ一つで、後は何も無かった。


「そんで、差し引きゼロだから。去年の精算」

「んじゃあ」


 遠慮なく。
 

 口元ではなく、唇に向けたキスに、零崎はそっと目を閉じた。






▼違う形でまた出逢う  









邂逅記念日おめでとうございますっ!!
pixivには間に合いましたがサイトは一日遅れましたごめんね……。
うっかり学校の課題に負われて準備期間なく今書きました。マジで30分かかってないんじゃないかなぁ。
因みに作業中Aimerさんのニコ生ライブも聞いてました。
人識くんといーちゃんがいつまでも仲良しでいますようにっ!!

 

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