捧頂

□紅色レクイエム
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紅色レクイエム


 夏の夕空が好きだと言ったら君は笑った。
 『俺も好き』なんて言って。

 夏の夕空の、血を流したような紅が好き。
 一時の紅は、私が私であることを再認識させてくれる。


「血を血で洗い流すっていうのかな?」
「んー…どうだろうな。」
「私が、いい子じゃないことをわからせてくれるから、好き。
 …んーと……割とあんたといる時もそうかも知れない。」
「そりゃぁ………。」


 そこで順平の声が途切れた。
 ス、と何かを差す指に視線を合わせた。


「今日は一段と紅いな。」
「うん。……ねぇ、あんたはどうしてこの時間帯が好きなの?」
「リコが好きだからじゃね?」
「んん〜?」


 言葉の意味を考えあぐねていれば、順平は私をそっと引き寄せた。


「リコが好きなもんは俺も好き。俺は、リコのことが好き。」
「っは……語呂合わせならごめんなんだけど。」
「あれ? 本気だけど?」
「……え。」


 見上げた視界は、黒。
 それが順平の髪の色だったのだと認識したのは唇が離れたあと。


「リコは血の色って言ったけどさ。」
「うん。」
「俺は、やっぱり茜色なんだと思うよ。」
「……そうかもね。」


 順平は私から体を離すと、シュートを打つ仕草をした。


「いつでも「カントク」は酷なんじゃねぇの?
 もっと肩の力抜きゃいーじゃん。」
「…ありがとうね。」


 足りなかった何かを得た気がした。
 見上げた空の色が黒に変わっていくのを、 私はどこか晴々とした気分で見つめてた。


「……私も、多分あんたが好きだよ。」





紅と茜と
(変わってゆく価値観)

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