稲妻2

□夢色十色
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夢色十色


 彼のことを思い浮かべた時に附随して思い浮かぶのは、冷たい氷だ。

 それが僕にとっての彼がそう見えてると言うことなのか、それとも、彼がことあるごとに口にする言葉から来ているのか定かではないが。

 彼の白にも似た青はいつも僕の胸に留まっているようで、瞳の中には柔らかな彼の髪が容易に映った。

 そのたびに忌々しいような、なのにふわふわしたような、そんな面倒な感情に襲われる。

 そう、彼を思うことただそれだけの事で、なのだから、尚更気に入らない。


 一体いつから、こんな事をつらつらと思うくらいに僕は彼に侵されて毒されてしまったんだろうか。

 自分を庇護するのと同じ位彼が僕の中を占拠していくのがよく分かるから、それがとても悔しかった。


「あーあー、全く嫌になる」


 大きく伸びをしながらそんな事を叫ぶ。

 彼は読んでいた本をパタリと閉じた。


 そう、僕がこんな物思いに耽っていたのは、他ならぬ彼が目の前に居たからなのだ。


 チームの団欒室。さっきまでミーティングをしていた仲間達も、終わった途端、自室へ戻り散り散りになった。

 残ったのは、僕と、彼だけ。


「……ああ、ミーティング終わってたんだ?」

「やっぱり話、聞いてなかったんだね?」

「生憎話すのは好きだが話されるのは苦手なんだ」

「……涼野くんさぁ、」

「で、君はどうして残ってたんだい、亜風炉」


 僕の話を聞く気もなく、彼は遮って質問する。

 溜息、一つ。


「連絡係」

「うん?」

「君が話聞いてないのは目に見えてるから、僕が連絡係になったの。

 って言うか今更? もう何度も似たようなことしてきたと思ってたんだけど」

「……君も相当話を聞かないタイプだと思ってたんだけどな」

「空気を読まないのは仕様だから」

「そう」


 で? と先を促されて簡潔にミーティング内容を伝える。

 やっぱり聞き流すようで、僕は少しだけ苛立つ。


「まぁ、こんな感じ」

「うん、わかった。すまない」

「そう思うなら初めからちゃんとミーティング聞いててよ」

「それじゃあ意味がないんだよ」

「意味?」

「そう、意味」


 彼はテーブルに本をテーブルに置く。

 真新しい帯。ちらりと見えた煽り文句は神と悪魔の関係を示唆していて、なんだか恣意的に感じた。


「私が話を聞かないと、チャンスウは君に伝言を頼むだろ。私は晴矢の言うことは聞かないから。必然的に、君と会える時間が増える」

「……うん?」

「つまり合理的かつ作為的に君と二人になれるってこと」

「……あの、言ってる意味、計りかねるんだけど」


 彼はぱちくりと目を瞬かすと、肩を竦めた。


 よく分からず、と言うよりも分かった所為で却って理解が追いつかない、と言う方が正しいのかも知れない。


「どうやら私は亜風炉、君のことが好きらしい」

「……え、」

「君は?」

「……うん」


 問い詰められたら答えは考えるべくもなく脳裏を駆け抜けた。

 可笑しくなって声を出して笑うと、彼は不機嫌そうに眉をしかめる。


「打算的、だね。涼野くん」

「計算高いと言ってよ」

「僕も、好きだよ」

「……本当か?」

「神は嘘が嫌いなんだ」

「ふーん」


 君らしい、と彼は呟いた。


「じゃあこれから、そう言うことで、よろしく」

「……そういう事って、」

「私は君が好きで、君は私が好きなのだから、付き合っても問題ないだろう?」

「あ……、うんそうだね」


 立ち上がり本を取り直す。


「まぁ、今日はもう遅いから、寝た方がいいけど」

「おやすみ涼野くん」

「……おやすみ、照美」

「!!」


 すれ違いに耳元を掠めた声は甘い。


 照美、なんて。


 誰にも呼ばれてこなかった響き、だったから。

 呼び止める。


「おっ、おやすみ風介くんっ!!」


 思わず言い直した挨拶に振り返った君の表情は。


「……また、明日」


 僕を陥落させるに充分でした。








▼真夜中の福音











相互記念「忘れた鍵」架凛ちゃんへ。
涼照は流石に初めてだったんだけど……。
拙い文章でごめんね。

 

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