稲妻2

□なんていうか。
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なんていうか。


 霧野先輩は馬鹿だ、間違いない。


 狩屋はひとりごちて大きく溜息をついた。

 ぴょこんぴょこんと揺れる二つ縛りのピンク色の髪の毛が脳裏に浮かぶ。

 忌々しいと言わんばかりに乱暴にそのイメージを振り払い、彼は目の前のボールに集中を試み。


「だあああ、何だってんだよ!?」


 やはり浮かんだピンク色の髪の毛と、それに付け足された信頼の笑顔に、あらぬ方向にボールを飛ばす。


 何だこれ、なんだこれ、ナンダコレ。


 酷く落ち着かない彼は、とんとん、と肩を叩かれ最上級の苛立ちと共に振り返った。


「え、あ、間が悪かったか?」

「……霧野先輩」


 そこに居たのはまさしく霧野蘭丸その人で。

 思わず仰け反り、狩屋は口を噤んだ。


「お前、休みの日くらい別の事すればいいのに」

「は、」

「サッカー。よっぽど好きなんだな、狩屋は」

「うるさいな、俺が休みに何してようと、霧野先輩には関係ないことじゃないですか」


 が、すぐに噛み付いた。


 ……この人といると感情が上手く制御できない。……ああもう、イラつく。


 遠くに飛んでいったボールを追う振りをして、霧野の側から脱する。

 なんだかひどく落ち着かなかった。


「なんていうか」


 霧野の言葉尻が変わっていくのが、背後からでもよく分かる。

 ふざける訳でなく、然りとて真剣すぎる訳でもなく。


 無視だ無視。気にしたら負ける。


 狩屋はぐっと言葉を発しかけた口を閉じる。

 霧野はそれを察したように苦く笑った。


「お前、俺たちの仲間なんだから、一人のふりしなくて良いんだからな」

「……そ、んな痒いこと、真面目に言わないで下さいよ。

 うわっ、さぶいぼ」

「あーはいはい、そういうことにしとく」


 霧野は狩屋の言葉をさらりと受け流し、肩に掛けていたバッグを地面に置いた。

 それから、ちょいちょい、と招き手。


「何ですか」

「俺も練習付き合うから、パス」

「……あーもう、ご自由に」


 どうせ、突き放したって意味ないんだろ。


 そう言った狩屋の声は、以前よりも幾分、明るさを内包して。

 諦め混じりに蹴ったボールは、真っ直ぐに霧野の元に飛んだ。








▼一人じゃないってコト

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