no title 2

□幕間
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幕間

 ※人間試験捏造


 彼女はあんまりにも綺麗で禍々しくて、そう、その変化は蛹から蝶になる如くで。

 そのおどろおどろしさを超えた神聖さに目を見張り、触れ―――呑まれた。


「貴女が好きですよ、伊織さん」


 こくり、と喉を鳴らす音を聞く。

 ぽとぽとと断続的に右手首から落ちる紅。

 告白、をするにはあまりに間違ったシチュエーションだった。


「……薙真さんが私の家族を殺しさえしなかったらもう少し、考える余地くらいはあったんですけどね」

「え、」

「こんなに“踏み外した”のに好意をくれるのが嬉しいんです。手首のことは……まあ、不問として。

 でも、駄目ですよぅ、伊織ちゃんは、あの家が、家族が、好きだったんです。そう、気付いちゃったんです」


 ゆら、と彼女は立ち上がり、貧血でふらふらと揺らぐ体で一礼した。

 ごめんなさい、と、普通の女子高生のように。


「……ま、そりゃそうでしょうね。つまらない戯言でした。顔を上げてください、伊織さん」

「……」

「伊織さん?」

「せいっ!」

「!!?」


 距離―――零。

 何処から湧いたのか分からない程の跳躍力を見せて、彼女が彼の眼前に現れる。

 勢いそのまま、彼の額に彼女の唇が掠めた。


「こんなに簡単に近づかれちゃうんじゃ、薙真さん、死んじゃうんじゃないですかぁ?」

「……」

「好意にありがとう、です。額はお礼と言うことで」

「……貴女には、敵いそうも無い」

「あはっ、それは、なんと言うか、―――傑作、ですね」

「……、っ」


 カチリ、と彼の脳裏が音を立てる。刺青の憎き零崎と彼女が、ピタリ、重なった。


 ―――まぁ、所詮は起こうる筈の無い、恋愛遊戯、でしたか。


「貴女は零崎で僕は早蕨だ」

「薙真さんは私の“家賊”を殺そうとしてて、私の“家族”を殺した」


「「上手く行くはず、ないでしょう」」


「それでは」

「はい」

「敵対しなおしましょう、伊織さん。せめて零崎に“成り切る”前に、死んでください」

「いーやですよーぅ、私はお兄ちゃんを助けに行くんですから」


 きしきし、と古い倉庫の天井が音を立てる。

 刺さりっぱなしの匕首が少しずつ重力に捕まりつつあるのを、二人はまだ知らない。

 彼は薙刀を構え、彼女はキツく手首を握りなおした。



「「じゃ、再開」」











▼失恋決定稿





 

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