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□アナザー:ワールドイズマイン
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アナザー:ワールドイズマイン
「零崎はお姫様だよね」
「は? なんだよいきなり」
「気質の話」
「あー……根拠は?」
「え、あげつらっていいの?」
「連ねるほどか俺」
「うん」
「……ま、うん、言ってみろ」
狭い四畳間のアパート、僕の部屋に零崎が遊びに来ていた。
相変わらずの無表情で僕は唐突にそんな事をのたまう。
零崎は少しばかり面食らったような顔をして、それから、ま、ものは試し、ってこったな。とひとりごと。
僕が次の台詞を吐き出すのを、ちょっとだけわくわくしながら待っているのを僕は素直に、可愛らしい、と評した。
「髪型、変わったら指摘しないと怒るし」
「傍観者仕事しろよ、外見くらい気付けっての」
「土足で平気でうちに上がり込むし」
「玄関らしい玄関が無いのが悪い」
「戯言で返事すると不機嫌になるし」
「人として当たり前だろ」
「違う君は殺人鬼だ」
「殺人鬼的にもアウトだ馬鹿」
「戯言だね」
「傑作だ」
むう、と眉を寄せる零崎に、僕は少しだけ笑んでぽんぽんと頭を軽く叩く。
彼は今度は頭を抑えて、顔をしかめた。
「いーたん訳分かんない」
「そりゃ良いね、専売特許だ。剣呑剣呑」
「剣呑って」
「うん、ま、そう言うところがお姫様だよねって話」
「どこが」
「察して欲しいなぁ」
口には出さないけど、君には他にも色々あるだろ?
とっくにナイフを手放した手が、所在なさげに僕に伸びては引っ込んで。
悪くない、とは思うけど。
君がどういうつもりなのかなんて、僕だってそろそろ察してる。
君がなんで僕に構って欲しがるのか、なんて。
「ん……あ、欠陥、お願い事が、」
「だが断る」
「ひっでぇ!! 話くらい聞けよ」
「どうせ甘味処だろ。君がお願いなんて言うのはそれしかない」
「まあいやそうだけど。……いーじゃんよ、付き合えよ馬鹿っ」
「……いちいち怒るなって。わかったよ、見てるだけでいいんなら付き合うよ」
「やりぃ」
「ったく浮き沈みの激しい奴」
君の我が儘はいつも僕を困らせるけど。
まぁ、偶には、悪くない。
「苺のショートケーキ、白餡蜜にチョコパフェにモンブラン、あとシュークリームに」
「まて人間失格、君はどれだけ頼むんだ」
「え、こんなん序の口じゃん」
「……ごめん僕帰る」
「ちょ、待て待て待て!! 甘味処に一人とか俺痛いじゃねぇかよ!!」
「男二人ってのも実は充分痛いって事知ってるか零崎」
「だーいじょぶ、いーたん女顔だから」
「……殺して解して並べて揃えて晒したいなぁ……」
「俺の台詞!!」
「これでもだいぶ譲歩してるんだよ、僕は。更に頼むなら僕は二度と付き合わない。
ある程度の甘味なら悪くないけど、その量は見てるだけで砂糖吐けそう、自重して」
「……うぅ、」
「分かった、あと一つ」
「よっしゃ!!」
君のための我慢はもう何度目になるかなぁ、零崎。
呟いて溜息。次々零崎の前に増えていく甘味に目をやって、逃避するように湯呑みに手を伸ばす。
ただ、幸せそうに甘味を頬張る零崎は見ていて飽きなくて。
「欠陥、はい、やんよ」
「……桜餅の葉っぱを剥がすのは邪道だと思う」
「苦手なの。処理してー」
「……はぁ」
……。
決まって後で、後悔するけど。
「ん、あ、いーたん、また誘ってい?」
「少しは僕の都合も鑑みて」
「変な事件に巻き込まれなきゃ基本的にいつでも暇人だろ」
「分かった、健康のために空き時間はジョギングする事にしよう」
「無理に予定を入れんなーっ!!」
「お、巫女子ちゃんっぽい」
「……うるっさい」
そう拗ねる君が、愛おしい、から。
結局、元々出掛けたのが夕方近かったことも相まって、甘味処を出たのは日が落ちてからだった。
「すっかり遅くなっちまったな」
「君は自分が追加注文何回したか、知ってるか?」
「んぁ? 2回くらい?」
「12回だよ」
「おお、連続殺人数と同じだ」
「……零崎、君さぁ……」
「あ、そだそだ欠陥」
「うん?」
僕の少し前、平均台宜しく沿石の上を子供のように渡りながら、零崎は思い出したように振り返って笑った。
ぴょんっと僕の目の前に立ちふさがる。
「ありがとなっ、付き合ってくれてよ」
「……まぁ、暇だったから、ね」
「かははっ、そりゃ重畳」
少しばかり言いよどんで視線を逸らす。
零崎の純粋な感謝と笑顔が、僕を懐柔する。
夜だから、暗いから、
鏡だから、
僕だから。
そんな、戯言を、自分の中に重ねて合わせて。
「ちょ、え、いーたん」
「……零崎、」
ぎゅう、と引き寄せて抱き締めた。
狼狽する零崎の声が徐々に落ち着いて、おずおずと背中に腕が回る。
「いや君、車。引かれる、前見ろよな」
「え……、あ、マジ?」
「沿石を歩くな君は一体何歳児だ」
「19歳児?」
「児童って言える年齢じゃないだろ間違っても」
「う、」
「ま、良かった良かった、引かれなくて」
戯言で、気持ちはまだ隠して。
こんな陳腐な嘘、君に通じてるか知らないけど。
「零崎、今日はもう遅いし、泊まるなら泊めてやるよ」
「んじゃ、世話になっかな」
騙されてくれるといいな。
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