no title 2

□アナザー:ワールドイズマイン
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アナザー:ワールドイズマイン


「零崎はお姫様だよね」

「は? なんだよいきなり」

「気質の話」

「あー……根拠は?」

「え、あげつらっていいの?」

「連ねるほどか俺」

「うん」

「……ま、うん、言ってみろ」


 狭い四畳間のアパート、僕の部屋に零崎が遊びに来ていた。

 相変わらずの無表情で僕は唐突にそんな事をのたまう。

 零崎は少しばかり面食らったような顔をして、それから、ま、ものは試し、ってこったな。とひとりごと。

 僕が次の台詞を吐き出すのを、ちょっとだけわくわくしながら待っているのを僕は素直に、可愛らしい、と評した。


「髪型、変わったら指摘しないと怒るし」

「傍観者仕事しろよ、外見くらい気付けっての」

「土足で平気でうちに上がり込むし」

「玄関らしい玄関が無いのが悪い」

「戯言で返事すると不機嫌になるし」

「人として当たり前だろ」

「違う君は殺人鬼だ」

「殺人鬼的にもアウトだ馬鹿」

「戯言だね」

「傑作だ」


 むう、と眉を寄せる零崎に、僕は少しだけ笑んでぽんぽんと頭を軽く叩く。

 彼は今度は頭を抑えて、顔をしかめた。


「いーたん訳分かんない」

「そりゃ良いね、専売特許だ。剣呑剣呑」

「剣呑って」

「うん、ま、そう言うところがお姫様だよねって話」

「どこが」

「察して欲しいなぁ」


 口には出さないけど、君には他にも色々あるだろ?


 とっくにナイフを手放した手が、所在なさげに僕に伸びては引っ込んで。

 悪くない、とは思うけど。

 君がどういうつもりなのかなんて、僕だってそろそろ察してる。


 君がなんで僕に構って欲しがるのか、なんて。


「ん……あ、欠陥、お願い事が、」

「だが断る」

「ひっでぇ!! 話くらい聞けよ」

「どうせ甘味処だろ。君がお願いなんて言うのはそれしかない」

「まあいやそうだけど。……いーじゃんよ、付き合えよ馬鹿っ」

「……いちいち怒るなって。わかったよ、見てるだけでいいんなら付き合うよ」

「やりぃ」

「ったく浮き沈みの激しい奴」


 君の我が儘はいつも僕を困らせるけど。

 まぁ、偶には、悪くない。









「苺のショートケーキ、白餡蜜にチョコパフェにモンブラン、あとシュークリームに」

「まて人間失格、君はどれだけ頼むんだ」

「え、こんなん序の口じゃん」

「……ごめん僕帰る」

「ちょ、待て待て待て!! 甘味処に一人とか俺痛いじゃねぇかよ!!」

「男二人ってのも実は充分痛いって事知ってるか零崎」

「だーいじょぶ、いーたん女顔だから」

「……殺して解して並べて揃えて晒したいなぁ……」

「俺の台詞!!」

「これでもだいぶ譲歩してるんだよ、僕は。更に頼むなら僕は二度と付き合わない。

 ある程度の甘味なら悪くないけど、その量は見てるだけで砂糖吐けそう、自重して」

「……うぅ、」

「分かった、あと一つ」

「よっしゃ!!」


 君のための我慢はもう何度目になるかなぁ、零崎。


 呟いて溜息。次々零崎の前に増えていく甘味に目をやって、逃避するように湯呑みに手を伸ばす。

 ただ、幸せそうに甘味を頬張る零崎は見ていて飽きなくて。


「欠陥、はい、やんよ」

「……桜餅の葉っぱを剥がすのは邪道だと思う」

「苦手なの。処理してー」

「……はぁ」


 ……。

 決まって後で、後悔するけど。


「ん、あ、いーたん、また誘ってい?」

「少しは僕の都合も鑑みて」

「変な事件に巻き込まれなきゃ基本的にいつでも暇人だろ」

「分かった、健康のために空き時間はジョギングする事にしよう」

「無理に予定を入れんなーっ!!」

「お、巫女子ちゃんっぽい」

「……うるっさい」


 そう拗ねる君が、愛おしい、から。









 結局、元々出掛けたのが夕方近かったことも相まって、甘味処を出たのは日が落ちてからだった。


「すっかり遅くなっちまったな」

「君は自分が追加注文何回したか、知ってるか?」

「んぁ? 2回くらい?」

「12回だよ」

「おお、連続殺人数と同じだ」

「……零崎、君さぁ……」

「あ、そだそだ欠陥」

「うん?」


 僕の少し前、平均台宜しく沿石の上を子供のように渡りながら、零崎は思い出したように振り返って笑った。

 ぴょんっと僕の目の前に立ちふさがる。


「ありがとなっ、付き合ってくれてよ」

「……まぁ、暇だったから、ね」

「かははっ、そりゃ重畳」


 少しばかり言いよどんで視線を逸らす。

 零崎の純粋な感謝と笑顔が、僕を懐柔する。


 夜だから、暗いから、

 鏡だから、


 僕だから。


 そんな、戯言を、自分の中に重ねて合わせて。


「ちょ、え、いーたん」

「……零崎、」


 ぎゅう、と引き寄せて抱き締めた。

 狼狽する零崎の声が徐々に落ち着いて、おずおずと背中に腕が回る。


「いや君、車。引かれる、前見ろよな」

「え……、あ、マジ?」

「沿石を歩くな君は一体何歳児だ」

「19歳児?」

「児童って言える年齢じゃないだろ間違っても」

「う、」

「ま、良かった良かった、引かれなくて」


 戯言で、気持ちはまだ隠して。

 こんな陳腐な嘘、君に通じてるか知らないけど。


「零崎、今日はもう遅いし、泊まるなら泊めてやるよ」

「んじゃ、世話になっかな」






 騙されてくれるといいな。










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