no title 2

□鏡の中の再会
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鏡の中の再会

※捏造ラジカル


 出夢くんと話した総括してもそう長くない会話の中でひどく印象に残っている物がある。

 福岡の彼の家になし崩しに宿泊が決まった、その夜。彼は思考する僕を見て露骨に表情をしかめた。


「おにーさん見てると超ムカつく」

「……僕、出夢くんになんかしたかな?」

「あーいや、別におにーさんは悪くないんだぜ?

 なんつーかさぁ、まるっきり似てないから飛びっきり似てるんだよ。

 僕の友達でライバルで恋人で家族で、……最後には敵だった奴に、さ」

「……」

「ああ、違うや。

 まるっきり会わなくなっただけで多分あいつは今も飄々と生きてるし、人を人と思ったままで何の感慨もなく人を殺すんだ。

 ……僕が、あいつを切っても殺し屋だったみたいに」


 出夢くんはそう言って肩を竦め、ぼふんとベッドへ身を投げた。

 そのままたしたしとその端を力無く叩いて僕に示したので、僕は素直にそこに腰を下ろした。


「おにーさん、昔話、してもいい?」

「うん」


 肯くと、出夢くんは少しだけ静かな笑顔を見せた。

 綺麗で、切ない、瞳を見せて。


「僕さぁ、今もそうだけど、昔はもっとイカレててぶち抜けた奴だったんだよ」

「それはそれは、」

「そん時にあいつに会ったんだ。正直、僕よりも相当に弱かった。相手にならないくらい弱くて脆かった。

 でも、僕はあいつのことが気に入って気になってな」


 すんごい迷惑なレベルで付きまとった、と冗談混じりに彼は言った。

 僕は続きを待つ。


「暫く貼り付いてたら、まぁ穏便な言葉にするならオトモダチって奴になったんだよ」

「全然悪くない話じゃないか」

「……いんや、そっからが、僕……いやそんな話じゃない。

 殺戮奇術の匂宮兄妹、匂宮出夢と匂宮理澄にとっての最悪だった」

「……?」


 出夢くんは両腕をかつて着ていた拘束衣のように交差させた。

 心なし細い肩が震えているように見え、僕は座る位置を少しだけ彼の側に近付ける。


「あいつといる時間が楽しくて、僕はあいつに執着しちまったのさ。あいつの傍にいる自分に酔ったってとこかな。

 ……僕は、堕落した。本来理澄に任せていたはずの『弱さ』を、あいつの元で獲得し掛けた」

「出夢くん、」

「理澄が生きるはずの世界を、僕はあいつに拘泥して消そうとした」

「……」


 淡々と話す出夢くんは、しかしその口調と裏腹に悲痛な表情を浮かべていた。

 何を言えばいいんだろう、どう言えばいいんだろう。


「だから、僕から切ったのさ。

 あいつの生きてた普通の世界を壊して殺して解して並べて揃えて、あいつの目の前に晒してやった。

 ……それで、僕とあいつは終わりだったんだよ、おにーさん」

「…………!」


 殺して解して並べて揃えて晒して……。

 ……それじゃあ、まるで。

 出夢くんの友達は。


 出夢くんはいっそすっきりしたように、手を解放して大きく伸びをした。


「おにーさんさぁ、あいつのこと知ってたりすんのかね」

「……」

「まぁいーよどっちでも。

 あのさ、一つ、頼んでもいい?」

「いいよ」

「じゃあ、」


 彼はそう言って少しばかり思案する仕草を見せた。

 うん…、と微かに唸るような声が端々に漏れた。

 やがて、ぱっと表情を明るくし、出夢くんはこう言った。


「もしおにーさんがあいつに会うようなことがあったら、こう言っといてよ。


 お前にはお洒落センスが無さ過ぎだ


 って、な」

「……わかった」


 頼んだぜ、と出夢くんは念押しのようにもう一度そう言って、ベッドから起き上がった。

 僕は一言、問い掛けた。


「僕とそいつって、一体何処が似てて、何処が似てないんだ?」

「どこって」


 ぎゃはは、と哄笑が返ってきた。


「どっこもかしこも全くもって違い間違い大外れに決まってんじゃーん?

 ん・ん、んー……強いて言うなら、目、だな」

「目?」

「そ。生きてるのに死んでるみたいな、いんや逆かな。死んでも尚生きてそうな、その目かな。

 あいつに、よく似てる」


 目、かぁ。

 よく見たことが、無かったかなぁ。


「……出夢くんが言うなら、きっとそっくりなんだろうね。

 ……やっぱりもう一つだけ、聞いても良いかな」

「あ? 別にいーけど」

「そいつの口癖とかあったら教えてくれないかな」

「なんで」

「もし見つけた時、本人確認できるように、かな」


 なるほどね、と呟き、今度は大して悩んだそぶりも無く、彼はあっさりこう言った。


「傑作、かな」





 
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