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□幸せ計画
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幸せ計画


「みんな過負荷って言うけど、考えてみれば『大嘘憑き』って結構有能だね」

「『……どういうこと?』」

「あのね、例えなんだけど。

 例えば、記憶力が凄く悪かったとするでしょ? じゃあ、その事実を『無かったこと』にしたら、記憶力は良くなるんじゃないかなぁ、とか。

 例えば、宝籤が当たらなかったとして、その当たらなかった事実を『無かったこと』にしたら、何かしらに当たるのかなぁとか」

「『……』『斬新な利用法だね』」

「使い方っていうか、考え方次第じゃないかな。

 禊ちゃんは、今まで嫌なことしかなかったから、マイナス方向にしか過負荷を使えなかったんだよ。

 でも、考え方一つで、こんなに陽極のスキルになるでしょ?」


 どーかなっ? と彼女は得意気に胸を張って言った。

 彼は出された例を思い浮かべ、シミュレートし、小さく吹き出す。

 途端に彼女が心細げにおどおどと挙動不審に陥った。


「や、やっぱり駄目かな……?」

「『喜界島さんの』『その明るさが』『嬉しかっただけだよ』」

「本当に……?」

「『誓って』」


 彼はおどけたように笑い、彼女は肩をなで下ろす。


 放課後の、生徒会室。

 依頼に出掛けた生徒会長と書記。悪平等に拉致られた庶務。

 残った二人は書類の山に向かっていた。


「禊ちゃん」

「『ん?』」

「今日、一緒に帰ってもいい?」

「『……』『僕は構わないってゆうか』『万々歳だけど』『いいの?』」

「うん。禊ちゃんと、帰りたいな」


 算盤がパチン、と小気味良い音を立てて、彼女はその数字を黙って書類に書き写す。

 彼はその書類に副会長権限で判子を押し、会長の机にまた一枚、積み重ねた。


「『さっきの』『利用法の話だけど』」

「うん」

「『僕には、そういう綺麗な使い方が出来るとは』『思えなかったよ』」

「どうして?」

「『僕は』『ずっと、ずっと』『生まれてこの方18年間』『マイナスで居続けてた』『から』

 『今更』『螺子曲げてまで』『陽極で使うなんて』

 『都合が良すぎ、御都合主義だ』『と』『思うんだよね』」

「……禊ちゃん」

「『ああ』『喜界島さんを否定するつもりじゃ』『無いんだぜ』

 『でも』『自分の過負荷は』『自分が一番よく分かってる』『ものでしょ?』」


 その言葉が言い終わるよりも早かった。

 彼女は席を立ち、ツカツカと彼に歩み寄り、


 パンッ


 と思い切り、彼の頬を叩いた。


「禊ちゃんは、そうやって自分を貶めるから!! だから、いっつも私が悲しくなるの!!

 自分を否定しないでよ、禊ちゃんを好きでいる私を、私が嫌いになるから!!」

「『……』」

「何度でも言ってあげるよ。

 禊ちゃんの過負荷は素敵だよ。『却本作り』はよく分からないけど、『大嘘憑き』は間違い無く他人を幸せに出来るもの」

「『……』『……全く』」


 彼は彼女の赤くなった手のひらを取り、ぎゅっと握った。

 双方共に、僅かにその手が震えていた。


「『恐れ入るぜ』『僕は』『君に弱いみたいだ』」

「……」

「『喜界島さん』」

「なぁに?」

「『今から僕が言うこと』『気持ちが悪かったら、僕にオールフィクションを依頼してくれる?』」

「……それを、禊ちゃんが必要と感じてるなら」


 ありがとう、と彼は消え入るような声で呟き、真っ直ぐに彼女を見つめた。

 彼女が僅かにたじろぐ。


「『僕は』『喜界島さんと』『毎日一緒に帰ったりしたい』『です』」

「うん」

「『喜界島さんと』『一緒にいる時間が』『幸せです』」

「……うん」

「『僕と』『付き合って貰えますか』」


 沈黙が部屋に横たわって、彼は身じろぎして彼女を見守った。

 ふぅ、と溜息一つ。

 彼女は嬉しそうに、笑った。


「……その言葉を、ずっと待ってたよ」

「『……本当に?』」

「疑り深いなぁ」

「『ごめん』『幸せに慣れてない』『から』」

「じゃあ、いっぱいこれから積み重ねて行こうよ」


 辛かった過去を塗り替えて『無かったこと』に出来るくらい。


 彼女はそうして微笑んだ。彼は少しだけ視界を揺らがせた。


「私は、禊ちゃんが好きだよ。だから、傍にいて下さい」

「『うん』『勿論』」







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