no title 2

□もしももしもにもしかして
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もしももしもにもしかして



※時間軸人間関係エンディングから



「ごめんねぇ、僕、人識が“普通”に生きられる場所をぶっ壊しに来たからさぁ!!

 凄く理不尽で身勝手であんたらには無関係極まりないことは解ってるんだけど、


 僕と人識の為に僕に殺されて下さい


 ……ってか? ぎゃはははっ、僕ったら猟奇的ぃっ!!」


 人識のクラスに乱入して、近くの一人を殺しながら彼がのたまったのはそんな台詞だった。

 出夢にしては珍しく事前調査済みの計算済みで起こした行動は、八時前に学校に来たことのない人識にはまだ預かり知らぬ事柄である。

 突然の惨状に、朝早くから登校し自習に励んでいたクラスメイトは一様に出夢を見たまま金縛りの如くぴくりとも動かない。

 まるでこのまま黙っていれば目の前の事象が消えていくと信じているようだった。


「あ、あんたら人識って言われても誰だか分かんないんだっけか」


 失敗失敗、と頭を掻いた出夢の髪に、血液の赤がべたりとついた。さらけ出した白い肩も腕も顔も、何もかもが血だらけだった。

 出夢はぎゃはは、と嗤って自分の真正面に立ち尽くす生徒に指を突きつけた。

 奇しくも、前に学校に不法侵入した際取り次いでくれたクラス委員長だった。


「どーせ皆殺しだし? 冥土の土産に教えてあげよっかなぁ? うわ、僕親切だぁー」


 真っ赤な手を彼女の頬に添えて、もう片手を腰に回す。戯れのようなキスを額に落とした。


「あんたらの大事な大事なクラスメートの汀目クンは零崎人識っつう殺人鬼なんだよ。

 知ってたぁ? 知らなかったよねぇ? ってか信じらんないかぁ! うんうん、まぁそうだよねぇ!!

 ……あいつ、殺人鬼のクセに一般人とフツウに生活してんだもんなぁ、殺し屋の僕に見せつけてんのかっての。

 ああ、ほらっ、ほらほらほらほらほらぁ!! 考えてみなよその優秀な脳味噌でさぁ!!

 汀目クンは無断欠席で何してたと思う? どのくらい異常だったぁ?

 あくまであいつはこっち側の奴なんだよ、あんたらは只の仮初め。ざーんねんでしたぁ!!

 だからカタギの振りしてたしてた人識クンに罰なんだよね、ぎゃはは。あんたらも運が悪かったよね、同じクラスじゃなきゃ僕に殺されなかったのに。

 ごめんね殺されてねせめて美味しく《一喰い》してあげるから、それじゃあ」


 出夢は荒れ野に咲く一輪の花のように、愛らしく美しく魅力的に笑って。


「ばいばぁい」


 その手の中に抱かれていた彼女の首が、ごきり、と音を立てて180度回転した。

 一拍あって、漸く誰かが声を発する。しかし、


「煩いなぁ、学校全員虐殺しなきゃいけなくなるじゃん」


 その声が悲鳴に変わる前に、出夢は名も知らないその誰かを喰い散らかす。


「いやぁ、無駄話しちゃったからねぇ。超特急で無料御奉仕だ。

 ぎゃははっ!! あんたらにはせめての優しさになるよ、一瞬でスパッとサクッと殺してやんよ」










 それから数分も経たないうちにかくて出夢は教室の中に地獄絵図を作り出した。

 委員長の頭を横抱きし、我が子をあやす親のように撫でながら、人識の登校を待つ。


「人識、僕のこと憎んでくれるよねぇ……?」


 いつもの品のない笑い声とは違い、くすくすと静かに笑った出夢は、ふと脳裏に浮かんだ男の姿に眉をひそめた。


――結局、あの男の、思い通りかよ


 実に最悪な野郎だった、と振り返る。その男の通りに動いた自分にも、少し嫌気が差した。


「でもさぁ、僕がこんなに“弱い”んじゃ、理澄は、存在し得ないから」


―――ごめんねぇ、人識。


 胸の内で呟いたのは、そんな一言だった。口に出していたなら、誰かが聞いていたなら、その声色の震えも感情も、懺悔そのものに聞こえたことだろう。

 しかし、そんな人物はもうどこにもいないし、出夢もだからこそ胸に押し留めた。


―――もしも、あの狐面に会わなかったらさぁ、僕らはまだ一緒に居られたかなぁ。

   結局、選んだのは僕だったね。人識と敵対することを選んだのは。


「あーあっ、はっやく登校してこないかなぁ、とっしーったらっ!!」


 委員長の頭をぐりぐりとこねくり回し、汀目俊希の机に座り、彼は憂さを吹き飛ばすように苦く叫んだ。


「愛してんぜ、人識!!」




 全ては、



 零崎人識或いは汀目俊希が教室にやってくる、数分前の独白である。














▼愛を欲する“弱さ”と愛を告げる“強さ”
 (どちらか一つでも肯定できたらきっともっと違った結末があったのに)

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