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□薬理作用
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薬理作用
※黒紫苑です。
薬理作用を持つ植物の事を薬と言います。
薬理作用を持つ植物は薬用植物と呼ばれ、一般的には生薬、ハーブがそれに当たります。
薬用植物には有毒植物もあるので取り扱いには充分注意しましょう。
「君の演技、凄く良かった。
どの演技も悪くは無いんだけど、やっぱり君のが一番光るって言うか、目に飛び込むって言うか」
「そらアンタが俺のことを食い入るように見てるからだろ、別に俺が特別上手いわけじゃない」
「そうかなぁ………。っと、鍵、鍵はーっと」
アパートの二階。古ぼけ塗装の禿げかけた扉の前で紫苑はごそごそと鞄をあさる。
大きな溜め息をつくと、ネズミは先ほどまでのべた褒めのセリフを思い出し、幾らか眉をひそめた。
あった、とはしゃぐような紫苑。舌打ちして、ネズミは扉の前に向き直った。
「ただいま」
「ただいま、おかえり、ネズミ」
「……おかえり紫苑」
初日の舞台。
ネズミへの花束の量は些か異常なほど多い。どさりと荷物を降ろすと、二人はそのまままた部屋を出、外付け階段を駆け下り、階下のタクシーに乗せたままの花束と贈り物を取りに戻る。
見かねた運転手が作業を手伝って、計二回。どうにか荷物を運び終えた。
「やっぱり、ネズミは光るんだよ。でなかったらこんなに贈り物も花束ももらえないだろ」
「人を発光物みたいに言うな。
それに。さっきからなんでそんなにむくれてるんだよ、紫苑。
あんたの気に触るような事した覚えないんだけど?」
「うん、知ってる。君は何もしてない」
紫苑は言葉の棘を隠そうともせず、2LDKの部屋の半分を埋める花と贈り物に視線を移した。
イヴ様へ、と書かれた可愛らしい文字がどこかしこに見えた。
「これじゃ、千秋楽までにこの部屋君への花やら贈り物やらで埋まるんじゃないか?」
「………そうだな。あ、そうだ。紫苑、火藍に店に花飾るか聞いといてくれないか?
あとは……、」
「それで足りるのか? 対処しきれないと思うけど」
「何だよ紫苑、不機嫌だな本当に。
……何? 俺がこんなにもててるから焼いてる訳?」
意地悪そうにネズミが微笑む。
幾らか表情を歪め、紫苑は無言で立ち上がり、唯一贈り物に侵食されていない部屋の奥に向かった。
「今日、漢方薬について講義を受けてきたんだ」
脈絡無く彼はそう言って三枚綴りの資料をネズミに投げて寄越した。
とまどい気味にネズミがそれを受け取ると同時に間髪いれず、二枚目、と指示が飛ぶ。
「……これが何?」
「麻薬としての阿片の存在は君も知っていると思うけど、阿片って使い方次第じゃ末期癌患者の疼痛を取り除く薬にもなるんだ。知ってたか?」
「いや、」
「1986年にWHOが提案したんだ。『癌の痛みからの解放―モルヒネを中心とする三段階除痛ラダー法』って言うんだけど。
つまり、麻薬とされているのもにも医療効果があるんですよーってやつ」
「……あんたつまり何が言いたいわけ?」
紫苑はその問いを待っていたと言わんばかりににこりと笑った。ネズミの背筋が凍った。
何だか嫌な予感しかしない。
「僕は君が女性からもてる事に焼いてるんじゃないんだよ、そんなの君にだって分かってるくせに」
「………」
「君としては僕に妬いて欲しかったんだろうね。成功してるよ。
でもさ、ほら、医療麻薬とドラッグ」
ゆっくりと戻ってくる紫苑の目は怒っているようにも見え、ネズミは視線をそらした。
逃げるしかない。
と決断するのは少しばかり遅く、気が付けば紫苑はもう目前だった。
「毒にも薬にもなるんだよね、そういうのって。
……君が撒いた種だよ、責任とってくれるよね」
「……紫苑……あんたいつからそんなに性格悪くなったわけだよ……?」
「君と一緒にいると自分でも驚くことばかりだ。
まぁ、性格が悪い、なんていうのは君と沙布くらいだけどね」
「……あ、そう」
紫苑の息がネズミの頬に掛かった。
「と言うわけで、ドラッグ服用中なのでそこの所よろしくな、ネズミ」
▼からかうのもほどほどに。