no title 2

□ねぇ、ママ?
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ねぇ、ママ?



 シオンの誕生日を俺は知らない。しょうがない、だって正式に俺の子なわけじゃないから。

 だけど、一日一日、時が過ぎるごとに大きく逞しく成長していくこの子供は、俺の生き甲斐であり、今まで単調に繰り返してきた生活を根本から覆す。


 NO.6が無くなって、西ブロックとしての差別もエリートとしての優遇も無くなって、子供はみんな統一に、平等に、同じ学び舎に通うようになった。

 所謂『年中さん』とかいう、幼稚園デビューを果たした年になると、もうシオンは遊びたい盛りのやんちゃな子供だ。

 俺とシオンの事情を知らない他の子供の親たちは、未だに俺を遠巻きに見つめたりする。


 悪いけど、俺、耳はいいんだよ。『あんなに若い年で子供を育てるなんて、何を考えているのかしら』って。

 そんなん、俺らの問題だろうが。


「ママ、見て見て」


 とてとてと走ってきたシオンの手には淡紫色の花。


「ん、綺麗な花だな。何の花?」

「紫苑!」

「へぇ、そりゃいいな。お前さんにぴったりだ」

「あとで紫苑お兄ちゃんのとこにも持ってっていい?」

「あぁ。今日の夕飯は紫苑ちからお呼ばれされてんだ。丁度良かったな」

「わーい!」


 自分で言うのもなんだが、ぶっきらぼうで天邪鬼な俺に育てられたにも関わらず、シオンは純粋無垢だ。

 深い紫の瞳は、どこまでも澄んでいて、この小さな温もりを守りたいと思うほどに。



 ――あぁ、ネズミ。



 四年前に見たきりのあの背中を思い出す。

 どうしても腹が立って仕方が無い姿だけど、今日ばかりはふ、と笑みを浮かべた。



 ――お前さんに言った言葉、そっくりそのまま俺に返ってきたよ。



 『大切なモンを作っちまったほうの負けさ』

 『失いたくないほど大切な相手なら、最後までちゃんと守れ!!』



 ――俺にも、譲れないもんができちまった。






「ねぇ、ママ」

「ん、何だ、シオン」

「これあげる!!」


 肩掛けかばんから取り出したのは、一枚の絵だった。

 
「ママ!!」

「……そうか、ありがとうな、シオン」


 くしゃりとシオンの頭をなでてやる。

 目を細めてシオンはにっこりと、無邪気に、笑った。


「さ、行こうぜ。今日はシオンが俺の元に来た日なんだ。

 紫苑も火藍さんもきっと楽しみに待ってるよ」

「うん!!」


 
 なぁ、ネズミ。お前さん、今どこで何してるんだ?

 みんな待ってるよ、お前さんのこと。









▼Mother's Day

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