no title 2
□ねぇ、ママ?
1ページ/1ページ
ねぇ、ママ?
シオンの誕生日を俺は知らない。しょうがない、だって正式に俺の子なわけじゃないから。
だけど、一日一日、時が過ぎるごとに大きく逞しく成長していくこの子供は、俺の生き甲斐であり、今まで単調に繰り返してきた生活を根本から覆す。
NO.6が無くなって、西ブロックとしての差別もエリートとしての優遇も無くなって、子供はみんな統一に、平等に、同じ学び舎に通うようになった。
所謂『年中さん』とかいう、幼稚園デビューを果たした年になると、もうシオンは遊びたい盛りのやんちゃな子供だ。
俺とシオンの事情を知らない他の子供の親たちは、未だに俺を遠巻きに見つめたりする。
悪いけど、俺、耳はいいんだよ。『あんなに若い年で子供を育てるなんて、何を考えているのかしら』って。
そんなん、俺らの問題だろうが。
「ママ、見て見て」
とてとてと走ってきたシオンの手には淡紫色の花。
「ん、綺麗な花だな。何の花?」
「紫苑!」
「へぇ、そりゃいいな。お前さんにぴったりだ」
「あとで紫苑お兄ちゃんのとこにも持ってっていい?」
「あぁ。今日の夕飯は紫苑ちからお呼ばれされてんだ。丁度良かったな」
「わーい!」
自分で言うのもなんだが、ぶっきらぼうで天邪鬼な俺に育てられたにも関わらず、シオンは純粋無垢だ。
深い紫の瞳は、どこまでも澄んでいて、この小さな温もりを守りたいと思うほどに。
――あぁ、ネズミ。
四年前に見たきりのあの背中を思い出す。
どうしても腹が立って仕方が無い姿だけど、今日ばかりはふ、と笑みを浮かべた。
――お前さんに言った言葉、そっくりそのまま俺に返ってきたよ。
『大切なモンを作っちまったほうの負けさ』
『失いたくないほど大切な相手なら、最後までちゃんと守れ!!』
――俺にも、譲れないもんができちまった。
「ねぇ、ママ」
「ん、何だ、シオン」
「これあげる!!」
肩掛けかばんから取り出したのは、一枚の絵だった。
「ママ!!」
「……そうか、ありがとうな、シオン」
くしゃりとシオンの頭をなでてやる。
目を細めてシオンはにっこりと、無邪気に、笑った。
「さ、行こうぜ。今日はシオンが俺の元に来た日なんだ。
紫苑も火藍さんもきっと楽しみに待ってるよ」
「うん!!」
なぁ、ネズミ。お前さん、今どこで何してるんだ?
みんな待ってるよ、お前さんのこと。
▼Mother's Day