no title 2

□世界で唯一
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※最終巻ネタバレ



 暖かで柔らかい布団より少し寒々しい黴臭いベッドの方が好きだった。

 電子ペーパーより、紙製の本の方が魅力的だった。

 目を瞑れば五感総てが、あの頃、ネズミと過ごしたあの部屋を思い出させた。



『紫苑、お前さんはママのところに帰るのか』

『いや、戻るだけだよ。僕の帰る場所は、あの部屋と、家主のところだ』

『ふーん。ま、これからはお前さんも忙しくなるだろうから無理にとは言わないけど、たまには俺らの所にも来いよ。
 
 シオンにも会わせてやりたいし、いつあいつが寝蔵に戻って来ないことも分からないし』

『ありがとう、イヌカシ』

『はいはい、どういたしまして』


 イヌカシはそう言ってふわりと笑った。



 壁が無くなって、NO.6は変わりつつある。

 僕はいつの間にかその中心で目まぐるしく働いているし、世界は協調しようと歩み寄った。

 何もかもが、順調だった。


「だけど君がいない、いないんだよ、ネズミ」


 一人になるとどうしようもなく苦しい。


 会いたいと、もう一度触れたいと、そう願ってしまう。


「僕は、弱い」
 
「全くその通り。あれから何年経ったと思ってるんだ?

 なんにも変わってないな、成長しない子だね、紫苑」

「………ネ、」

「久しぶりだな、その様子だと随分頑張ってたみたいだ。褒めてやるよ」



 今度も彼は突然だった。

 悠然と微笑みネズミは僕の顎に手を掛けた。

 近づいた深い灰色の瞳に、吸い込まれそうになる。

 別れの日にしたキスとは違って、優しく慈しむような、そんなキスだった。


「ネズミ、会いたかった」

「やめろよこっぱずかしい。天然なのは相変わらずだな」

「君にそう言われるのは悪くない」

「ったく。………俺も、あんたに会いたかったよ」


 だから、自分でも思ってたより早くまた此処に来た。戻ってきてしまった。


 そう言ってネズミは頬を掻いた。


「ネズミ、今度は」

「うん、あんたを傍で観察してるのも悪くない。

 あんたのことだ、どうせ俺の部屋も綺麗に残してあるんだろ」

「ああ、あの頃のままだ」

「で?」

「なんだ?」

「あんたなら、一緒に住みたがるかなって思っただけ。間違ってないだろ」

「……適わないな、君には」


 ほら、と伸ばされた手を取る。

 NO.6から西ブロックへ逃亡したあの日を思い出して、首を横に振った。

 もう、破滅を目指すことも無い。もう、逃げる必要もない。

 壁もヒエラルキーも、全部全部消えた。

 今度は自らの意志で、あの部屋に帰る。



「お帰り、ネズミ」

「……ただいま、紫苑」







▼そしてまた

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